旅が終わった。これだけ言うととても簡単に思えるかもしれないが、そんな簡単に済む話じゃなかった。私たちの旅は星を救う旅であり、自分自身の為の旅だった。その中でも、我らがリーダー、クラウドは苦しい旅だったと思う。
彼はセフィロスとの戦いの中で自身を失いながら、自分を疑いながら、ここまでの道のりを歩いてきたのだった。最初はハリボテだったちっぽけなプライドが、仲間を導く大きな道標となり、私達を守ってくれた。そんな彼に好意を抱かないだなんて、無理な話じゃないだろうか。

彼は、逃げていた。興味無い、どうでもいい、そんな言葉を使って身軽に避けていた。話に乗るのは自分の興味あることかお金を手に入れられる時。そんな薄情なクラウドに、私はよく文句を言って喧嘩になったっけ。
そんな彼が変わり始めたのはいつだったか。色々とその傾向はあったかもしれないが、決定的なのはやはりエアリスとの関わりだったのではないだろう。エアリスと話す彼は、少なくとも「薄情な人間もどき」ではなかったように思われる。間違いなく人間だった。

その後彼を変えたエアリスが殺され、クラウドの人格が可笑しくなって、ジェノバという不可思議な生命体とか現れて。正直エアリスが殺された時点で着いていけなかった私は、その後の事なんかあまり覚えてない。目の前の死を受け入れるのに必死だった。何故皆はそんなに前へ進めるのか、エアリスの事をもっと悲しまないのか、思わず崩壊気味なクラウドに聞いてみたことがある。
その時、彼は言ったのだ。


「それでも、進まなくちゃいけないんだ。」


全然答えになってない、理由にもなってない、エアリスの事を馬鹿にしてるのか、そう憤った私は気づいてしまったのだ。エアリスの方ばかりを見ていた結果が、今の私なのだと。1歩も動けず引きずられて足でまといにっているのだと。そうして悟った、「進まなければならない」という事。皆エアリスの事を悲しんでいる、そんなことは分かっていた。それ以上に、憎しみが勝って現在の労働力としていること。「それ」がなければ、今にも崩れ落ちるほどの危ういものの上に成り立った復讐の物語。
一気に2つの議題を解決するのは難しい。だからこそ、死んでしまったエアリスのことを後回しにする他なかったのだった。

あぁ、あの子は皆に愛されている。死んでも尚愛されるということは、なんと羨ましいことか。
そうやって考えて、ふとクラウドのことが気になった。あんなにエアリスと仲が良かったアイツが、今どんなに悲しがっているのか。進まなくちゃいけないと言った言葉の裏に、どれほどの憎悪と悲しみを秘めているのか。そうやって、チラリと覗いた時だった。

クラウドは、笑っていた。
腕に抱えたエアリスを見て、多少顔が何かをこらえるように歪むことはあったけれども、それよりも愛おしそうに彼女に向かって微笑むそれが、どんな感情よりも上回っていた。
私はそれを見て思ってしまったのだ。ああ、私はコイツが好きなんだ、と。エアリスを愛しているクラウドを好きになってしまったのだと。
それは、あまりにも絶望的な恋心。人の恋とやらは上書きされるものだと言われたことがあるが、この場合は別である。何故なら、恋の相手が死んでしまったからだ。死んだ相手を超えることは生者には出来ない。それ即ち、クラウドが私の恋の相手となるにあたってエアリスを超えることが出来ない、私を好きになってもらえないという事と同義である。だから私の恋は、自覚した瞬間から叶うはずのないものだった。

そんな出来事から月日は経ち、ついに冒険を終えることが出来た。皆ボロボロになって、やっとの事で世界を救って。そのまま私たちはエアリスを葬った所へとやってきた。


「終わったよ。」


そうやって言ったのは一体誰だったのだろうか。その言葉を期に、ティファは号泣し始めた。泣くという行為にまでたどり着かなくても、唇を噛み締める者や俯く者など、それぞれに己の心情を噛み締めていた。
戦いは終わった。復讐は終わった。その動源力であった憎しみが、悲しみに打ち消された。彼女はもう生き返らない、話さない、笑わない。そんな、本当の意味での「死」が身に突き刺さる。あのクラウドでさえも、目を瞑って何か考えているようだった。

そんな中、私は一人突っ立っている。悲しむ事も、憐れむことも、涙を流すことも無く、ただ立っている。考えるのは前と同じ、「あの子は、死んでも尚愛されている」という事だ。それは、本人にとってはどれだけ幸せな事だろう。どれだけ嬉しいことだろう。だけど、私にとっては違うのだ。彼女は「死んでも尚、人の心を縛り続けている」のだ。私の大切な仲間たちを、あの愛おしい姿のままに記憶に留めている。それが、縛り付けると言わないで何と言えよう。どれだけ憎かろう。
私自身がエアリスに対して嫌なことをされた訳では無いし、今でも好意を持っていることは確かである。それでも、ならばなんで死んでしまったのという激昴が頭の中を占めていく。憎い、憎い。あの子が憎い。大好きな人達の心を占めるあの子が憎い。死んでしまったあの子が憎い。
死ぬのなら、全員を解放して欲しかった。全員が笑えるようにして欲しかった。あまりにも身勝手で自己中心的な考えだけど、そうでもしないと貴女に皆は囚われてしまうのだ。


「ちゃんと、セフィロスを倒したんだ。」


目を瞑ったまま、クラウドは呟く。


「もう大丈夫、だろ?」


そう言って目を開けたクラウドは、前と同じ、全く変わりのないあの笑顔を向けた。愛おしいものを見つめるような、切なげなあの微笑みを。
あぁ、だから解放して欲しかったのに。私を、クラウドを、みんなを。
最初からこうなる事が運命だったのならば、


「死なないで欲しかったのに。」


そんな私の呟きは、誰にも届かない、聞こえない。あの人にさえ、聞こえない。だって、あの人の心はずっと縛られ続けるのだから。
言葉は頬を撫でて行った風に紛れて溶けていく。それと一緒に溶けていく恋心は、一体誰のものだったのだろう。




Melting Love




さよなら、恋心。


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