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狂ったように笑って、暫くすると魂が抜けたような顔をして去ろうとする翼に賢斗は何かを手渡した。
「これは餞別だよ。
使い道は…まぁ君に任せよう」
そう言って賢斗が渡したものは、小さなオイルライターだった。
「一つ教えておこうか。
刑法ではね、殺人や放火って死刑の適用範囲なんだよ?」
とても優しい声でそう言って、賢斗は翼を送り出した。
その後、どうやって帰ったのかは正直記憶に無い。
気がついたら家で、いつまでも賢斗から渡されたライターを見つめていた。
自分は一体、何がしたかったのだろう。
自分はこれから、何をすれば良いのだろう。
途方にくれた翼の脳裏に賢斗の言葉が蘇る。
“一つ教えておこうか。
刑法ではね、殺人や放火って死刑の適用範囲なんだよ?”
(あぁ、そういう事か)
何をすべきか悟った翼は、カチリと音を立ててライターを着ける。
そこに燈された小さな火を暫く見ると、翼は一人微笑んだーー
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