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数日後、賢斗の事務所には再び真崎翼の姿があった。
「…ありがとう、と言うべきかしら」
「お礼なんて要らないさ、気持ち悪い」
翼の言葉に相変わらずの黒ずくめに、相変わらずの微笑を浮かべて賢斗は答える。
「そういえば…君のお義母さんは間に合ったのかい?」
「えぇ、ぎりぎり。
だけど呼吸が止まってから大分時間が経ってたから…脳に障害が残るみたい」
「ある種の精神崩壊だろう?」
こうなる事を予期していたような賢斗の笑みに、翼は息を飲んだ。
「貴方最初から…」
「依頼は精神崩壊、だろう?
それには色んな種類があるのさ。真崎美里のようなケースもあれば、真崎玲子のようなケースもある。
それに関して特に指定は受けなかったからね」
そっと肩を竦めた賢斗に、翼はため息をついた。
電話を貰って急いで久しぶりに帰宅してみれば、中は酷い有様だった。
床には動かない玲子が倒れ、美里は絶叫しながら手当たり次第物を破壊していた。
途方にくれた翼だったが、誰かが通報したらしい、すぐに救急車と警察がやってきて二人とも病院に送られたのだった。
玲子は辛うじて一命を取り留めたものの、先程賢斗に話したように脳に障害が残るそうだ。
美里は現在精神病院に入院しているが、元に戻るにはまだまだ時間がかかりそうだった。
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