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狂ったように泣き叫ぶ美里を見て、賢斗は声を上げて笑った。
「はは…ははははははっ!
良いね、自分の手で大切な物を壊すというのは、陳腐だが一番精神崩壊には有効だ。
人間が壊れる瞬間は、何度見ても飽きないよ」
独り言のようにそう言って、賢斗は何処かへ電話をかけながら美里の家を去る。
「あ、もしもし?
俺だけど、依頼完了だよ。
何かあれば、またあそこへ来てくれれば良い。
俺は、いつでもあそこにいるよ」
家の中から何かを壊す物音がして、賢斗は口元を歪め、付け加えた。
「あぁでも…早いうちに家に戻った方が良さそうだねぇ…」
そう言って電話を切ると、ガラスが割れる音と美里の絶叫を背に賢斗は夜の闇へと溶けて消えた。
「明日、また明日、また明日と、時は小刻みな足どりで一日一日を歩み、ついには歴史の最後の一瞬に辿り着く、昨日という日は全て愚かな人間が塵と化す死の道を照らしてきた。
消えろ、消えろ、つかの間の燈火!人生は歩き回る影法師、あわれな役者だ、舞台の上でおおげさに見栄をきっても出場が終われば消えてしまう。
白痴のしゃべる物語だ、喚き立てる響きと怒りは凄まじいが、意味は何一つありはしない。
…てね」
そんな言葉を残して。
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