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「隼人、さん…?」

「君、本当に結城隼人なんていると思ったの?」

呆然と彼の名を呼んだ美里に、彼は蔑むように嗤って言うと両目のコンタクトレンズと茶髪のウィッグを外した。

やや長めの黒髪と、黒い右目、そして…真っ赤な左目が現れる。
それは美里が最も恐れ、最も会いたくなかった人物、雨宮薙いや、終夜賢斗の姿だった。

「あ…!」

「こんばんは、真崎美里さん」

歓迎するような笑顔のはずなのに、それは他者を全て拒絶する冷たさがあった。
反射的に、美里は彼から距離を取る。

「腹が立つくらいの好青年を演じるのは中々辛かったけど…君のそんな顔が見れたなら僥倖かな?」

くすり、と笑って恐怖を顔に貼り付けた美里を見る。

「どういう、事なの!?
貴方は誰?隼人さんは…!」

「誰?だなんて本当は分かってるくせに、現実逃避かい?
それに、君には一度自己紹介してるはずだけどなぁ…
まぁいいや、この際改めて自己紹介しようか!」

靴の音を響かせて賢斗は美里に近づく。
美里を壁際へと追い詰めるように。

「残念だけど、結城隼人という人物も、雨宮薙という人物も虚構だ。どちらも俺が依頼の為に創り、演じた駒にすぎない。
俺の名前は終夜賢斗。
真崎翼から依頼を受けて君達に復讐をしに来た、ただの復讐屋さ」

「なんで、翼が!」

「分かってるくせに。自分達の行動を振り返ってごらん。連日暴力に晒されて人を恨まない人間ってのは希少だと思うよ?」

こつり、とついに美里を壁際に追い詰めた賢斗は怯えた目をした美里を見て笑った。

蔑むように、見下したように、人間性など欠片もない冷えた笑みで。

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