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その声に振り返ると、とっくに帰ったはずの隼人が微笑みを浮かべて立っていた。
その笑顔を見た途端、美里は急速に冷静さを取り戻す。
目の前の玲子はぴくりとも動かない。
首を締めた感触がしっかりと残っていて、美里は咄嗟に隼人にしがみついた。
「あ…あ…私…」
縋るように隼人を見ると、彼は微笑を浮かべたままだった。
その笑顔を見て、美里は更に不安に駆られた。
彼の笑顔は、美里が知っている優しい笑顔のはずなのに、どこまでも無表情で、どこまでも冷たかったのだ。
「どうして…ここに…?」
「電話があって、どうかしたのかと思って戻ってきてみたら大きな物音がしたので…」
「…っていうのは建前なんだけどね?」
隼人の声色が急に嘲笑う色を含んだものに変わる。
隼人の笑顔も、先程の微笑が嘘かの様に嘲笑に変わっていた。
それに、パニックで気づかなかったが、隼人の服装が何時の間にか変わっていた。
いつもの白いワイシャツにジーンズでは無く、真っ黒のパーカーにズボンというまるでーー薙のような服装に。
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