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「騙されてたらどうするの!
今すぐその人とは縁を切りなさい」
「嫌!」
その時、二人の口論を遮るように美里の携帯が鳴る。
ピタッと口論を辞め、美里は震える手で携帯を開いた。
≪着信 結城隼人≫
例の番号では無かった事に大いに安堵し、顔を上げると厳しい顔をした玲子と視線がぶつかった。
「その人からなの?」
違う、と否定する前に玲子は美里の手から携帯を取り上げた。
ディスプレイに表示された名前を見ると玲子の眉間の皺が深くなった。
ピッ、と通話ボタンを押すと捲し立てるように言った。
「もしもし、美里の母です。
突然ですみませんがもうこれ以上うちの娘と関わらないで下さい!」
そう一方に告げると呆然とする美里の前で玲子は携帯から隼人の番号を消してしまった。
「良い?もうその人と関わらないのよ。貴方の為なんだから」
そう携帯を返しながら言い聞かせる玲子の言葉など、美里には聞こえていなかった。
隼人の番号が消されてしまった。
このままでは隼人のつながりが消えてしまう。
(嫌だ嫌だ嫌だ!)
隼人が居ない事の恐怖と不安で美里はパニック寸前だった。
それも当たり前なのかもしれない。
隼人は死んだ義父の影に怯え、そんな義父とよく似た翼の憎悪を含んだ視線に怯え、不気味な青年、雨宮薙の影に怯えていた美里のたった一つの心の拠り所だったのだ。
それが今、奪われようとしている。
想像しただけでどうしようも無く怖かった。
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