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家の前には、誰も居なかった。
念のため辺りを確認するも、薙がいる様子は無い。
ホッと胸を撫で下ろした美里に、隼人は良かった、と声をかけてくれた。
「ありがとうございます、わざわざ…」
「いえ、何事も無くて良かったです。じゃあ僕はこれで…」
そう言って一礼し、去って行く隼人の後ろ姿を暫く見送ると美里も家の中へと入って行った。
「ただいまー」
「美里」
美里が家に入ると、深刻な面持ちをした玲子が出迎えた。
「あれ、お母さんもう帰ってたの?」
「美里、話があるの」
いつになく真剣な顔をした玲子に、美里は困惑する。
翼の事だろうか、それともその父親についてまだ何かあったのだろうか。
様々な憶測を並べた美里は次に続いた言葉に目を見開いた。
「美里、最近あなた知らない男性と親しくしてるらしいわね」
隼人の事だ、とすぐに分かった。
しかし何故玲子が隼人の事を知っている?
「なんで…」
「斎藤先生が最近あなたの様子が変だって教えて下さったの。
美里、何を考えてるの!知らない男と仲良くして!何かあったら…」
「違う!隼人さんはそんな人じゃない!」
咄嗟に噛み付くように言った。
隼人は美里の心を支えてくれる優しい人だ。
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