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「さてと…仕込みは上々、かな?」

ついさっき玲子と通話を終えた賢斗はそう言って携帯を放り投げる。

「いくら教師と名乗ったからって禄に話した事が無い相手から、しかも携帯で掛かってきたならもっと疑問に思うべきじゃないの?」

途端に返ってきた返答に賢斗はやれやれとため息をついた。

「そこに気が回らない程度には忙しかったのか、娘の安否にそれどころでは無くなったのか…どちらかだろうね。
最も、質問された時の模範解答は用意してあったけど。
…それよりも、君はいつまで存在してるつもりなのかな、真希?」

「存在って…酷いなぁ。
良いじゃないか、賢斗の仕事って最後までちゃんと見たこと無いし」

「見せ物では無いからね。
俺にとっては最高の見せ物だけど」

そう言って肩を竦めた賢斗に真希は苦笑する。
実際、賢斗が何を考えているかなど真希には分からないので彼にとっての“喜劇”がどう転がるかなど分からない。
それでもそこに彼の笑顔があればあるならば、見届けたいと思うのだ。

すると賢斗はほんの一瞬、ほんの少しだけ口元を歪めて嗤った。
思わず見逃してしまいそうな程に僅かなそれは紛れも無く嘲笑であった。
賢斗の形の良い唇から、言葉が零れる。

「ーーあぁ、憐れむべき愚かしき若者よ。
怖ろしくいたましい境遇よ。
お前が自分勝手に罪を作って永劫に投げ入れられようとしている焦熱地獄を思え。
その地獄へお前は大急ぎで行きつつあるぞーー」

「何それ?」

長々とした台詞に真希が眉を顰めると、賢斗は真希を見る事無く答える。

「ウィリアム・ブレイク『天国と地獄の結婚』の一節さ。
もうすぐ、この舞台も終わる」

誰に言うわけでも無く賢斗は呟くと、先程とは違う携帯でどこかへと電話をかけた。




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