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恐怖で言葉が出ない美里を知ってか知らずか、彼は言葉を続けた。

「俺は神だとか幽霊だとかその手の存在は信じてないんだよ。
見えないものを信じようって言ったって限界があるじゃないか。
確かにそこにあるという確証だって無い。
第一、神や幽霊だって人間が勝手に考え出した存在だから、俺は信じたくないわけなんだけど。
それに悪人を罰して善人を助ける神が居るとするならばこの世はもっと平和なはずだろう?」

美里の返事を期待しているわけでも無いのだろう。
彼は洞々と語り続ける。
まるで演説のように。

「幽霊とか、そういう類の話だって結局は一番怖いのは人間だっていう陳腐なオチじゃないか。
人間は神の最高傑作だって?
全く大層な自惚れだよ。
一体いつから人間は自分達がこの世の頂点だなんて勘違いし始めたんだろうね?
愚かしい、実に愚かしい!
そんなだから『人間は万物の尺度である』だなんてお門違いな事を言い始める輩が出るのさ。
いつから世界の中心は人間になったって言うんだい?
いつだって世界は世界のものだ」

そこで言葉を切って、彼はにっこりと笑う。
その笑顔は何処までも受容的でありながらしかし底冷えする冷たさがあった。

「君はどう思う?真崎美里さん」

「え…」

話を振られたことよりも自分の名前を呼ばれた事に対する驚きが勝った。
美里の反応を見た彼はくすりと笑った。

「職業柄、色々な人間の情報が手に入るもんでねぇ。
個人情報は案外簡単に手に入るって意外と知られてない事ではあるけどさ」

そこで何かに気づいたように彼はパン、と手を叩いた。

「そうだ、俺だけが君の事を知ってるっていうのもフェアじゃない。
俺は雨宮 薙(あまみや なぎ)。
以後お見知りおきを」

そう言って最後にもう一度だけ笑うと、薙は夜の闇へと溶けるようにして姿を消した。

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