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「良かった。
これ、貴方のじゃないですか?」

そう言って青年は手に持っていた何かを差し出す。
それは昨日落とした定期だった。

「あ、私の…!」

「昨日ぶつかった時に落としたみたいで、すぐ追いかけたんですけど追いつけなくて…すみません」

「そんな…わざわざありがとうございます!」

勢いよく頭を下げた美里を見て、彼はくすりと笑った。
急に恥ずかしくなった美里は顔を赤らめた。

「す、すいません…」

「なんで謝るんですか?」

きょとんとした顔をする青年を見て、今度は美里が笑ってしまう。
彼はますます不思議そうな顔をしたが、暫くすると彼もまたくすり、と笑った。

「面白い方ですね、美里さんは」

「貴方だって面白いですよ、えっと…」

そういえば自分は彼の名前を知らないのだ、と気づき口ごもる。
それを察した彼は優しげな笑みを崩さぬまま名乗った。

「結城です。
結城隼人(ゆうきはやと)。
また、会えると良いですね」

最後に爽やかな笑顔を浮かべてそう言うと隼人は背を向け、去って行った。
その後ろで、顔を真っ赤にした美里に気づかずに。

隼人がその場を去っても、美里は定期を握りしめたままその場に突っ立っていた。

ーーまた、会えると良いですね。

隼人の言葉が再生されて再び美里は顔を赤くした。

「結城さん、か…
かっこ良いなぁ」










ぽつりと呟いた美里の様子を伺う者が一人。
彼は心底楽しそうに、しかしその中に紛れもない残虐性を滲ませて
嗤った。

「これはこれは…中々面白い事になりそうじゃないか。
結城隼人…使えるね、彼は」

温度を感じさせない笑顔で言うと、賢斗はくるりと踵を返した。

今の時間帯は、彼にとって眩しすぎた。
昼の街は嫌いだ。
じゃあ夜の街は好きなのかと問われれば答えは否なのだけれど。

「人間が居るところは嫌いだよ」

忌々しげに吐き捨てたあと、賢斗はその場から離れた。
舞台の準備を整える為に。

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