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その日、真崎美里は学校から帰る途中だった。
いつもなら帰る時間は夕方頃なのだが、テスト期間の為今日は午前中で帰れるのだ。
抜けるような青空を見上げ、一つため息をつく。
ここ数日、義理の姉である翼が帰って来ない。
暫く友達の家に泊まる、と言ったきり彼女から何の連絡も無い。
勿論、自分達のせいだという自覚はある。
自分や母の玲子の翼に対する態度が虐待であるという事も、分かっていた。
ーー仕方ないじゃない、あの男の娘なんだから。
そう思う事で、自らの行いを正当化していた。
やっと、真人から解放されたと思ったのに翼を見ると嫌でも彼を思い出した。
そんな事を考えていた為、前を良く見ていなかったのだろう。
美里は、前から歩いて来た人と正面からぶつかってしまった。
「きゃっ!」
「うわっ!」
踏ん張る事が出来ず尻もちをついた美里に、そっと手が差し伸べられる。
「す、すみません!
前を良く見ていなかったので...」
「いえ、僕の方こそすみません。
大丈夫ですか?」
柔らかい物腰にほっとし、顔をあげると優しそうな笑顔を浮かべている青年の顔があった。
20歳前後だろうか。
整った顔立ちの色白の青年だった
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