prologue
暗い部屋に響く、乾いた音。
その音に、少し遅れてやってくる痛み。
ーーあぁ、今、殴られたのか。
赤くなった頬を抑え、ぼんやりと思った。
殴られる事にも、否定される事にも、痛みにも、慣れた。
「何よ、その目は!
あーもう、本当に気持ち悪い子ね!」
慣れたのだ。
気味悪がられる事にも、振り上げられる拳にも。
自らを殴った人物を見る“彼”の目は、酷く冷たい。
その目の色とは対照的に冷え切った瞳の奥にちらつく、暗い憎悪の焔。
「あんたなんか産まなきゃ良かった!
あんたみたいな化け物、産まなきゃ良かった!」
そうして再び暗い部屋には乾いた音が響く。
ーー嫌いだよ、人間なんて。
彼は心の中で吐き捨てた。
いくら殴られても表情一つ変えないその少年の左目は、血のように赤い。
そう、彼は慣れていた。
殴られる事にも、否定される事にも、痛みにも。
気味悪がられる事にも、振り上げられる拳にも。
そしてーー
愛されない事にも。
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