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「確認するけど、依頼は真崎玲子と真崎美里を精神的に追い詰める事、で良いのかな?」
何処までも明るく、無邪気に賢斗は翼に問いかけた。
翼は滲みかけていた涙を慌てて拭い、頷いた。
「だけど、殺す事はしないで」
「分かってるって。
さっきも言った通り俺は依頼以上の事はしない主義だ。必要以上に人間に関わりたくは無いからね。だから君が二人を殺せと言わない限り、命を奪う事はしないさ。まぁ、依頼内容の変更は追加料金がかかるけど」
何処まで本気なのか分からないような事を言って、賢斗はパン、と手を叩いた。
「交渉成立、だね。
じゃ、後は俺の方で動くから君は帰って良い。
あ、今回は精神崩壊って事だし、多少は時間がかかるからそのつもりでいてね?」
賢斗の言葉に、翼はゆっくりと頷いた。
「私は暫くあの家には戻らないつもりよ。少なくとも、復讐が終わるまでは。だから、あなたの邪魔はしないわ」
すると賢斗は満足そうな笑顔を浮かべ、にっこりと微笑んだ。
「それは良かった。正直、君が居ると少しやりにくいからね。
それに、俺は人間の次に仕事の邪魔をされるのが嫌いだ。君が賢明な判断をしてくれて良かったよ」
その賢斗の笑顔に、再び翼はゾクリとする。
彼の笑顔は、人間味をまるで感じさせないのだから。
「...じゃあ、頼んだわ」
これ以上この場所に居たくないと思った翼はそう言って事務所を去って行った。
翼が出て行った途端賢斗の目がスッ、と細められる。
「あーぁ、駄目だね、あれは。
ハズレだ、しかも大ハズレ。
まだ前回の依頼人の方が楽しめたかなぁ...まぁでも」
一旦言葉を切った賢斗は、冷たい微笑を浮かべ、手を組んだ。
赤い、紅い左目が暗い部屋で怪しく光る。
「ターゲットの方で、楽しませて貰おうかな」
賢斗が静かに笑う声だけが、部屋に響いた…
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