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結論を言えば、翼の父もその消防士も、帰ってくる事は無かった。

そして、あの火事は放火の可能性があると警察は言った。
誰かが意図して火を放ったと。

それを聞いた時、翼は耳を疑った。
では父は、誰かに殺されたと言うのか。

そう思うとどうしようも無く怒りや憎しみが込み上げて来て、気がついたらこの店へと来ていた。

「...本当はその時、犯人を捕まえて復讐するつもりだったの。
でも...」

翼は何処か遠くを見つめて語る。
賢斗は笑顔を浮かべたまま、翼の言葉を引き継いだ。

「でも、俺の話を聞いて君は怖くなったわけだ。もしかしたら自分も死んでしまうかもしれない。自分に復讐する覚悟は本当にあるのか?そんな思いに囚われた君は何も依頼する事なく帰った。
まだ放火だと決まったわけじゃない、なんて思い込む事で憎しみの炎に蓋をしたってとこかい?」

翼は驚いた顔をして賢斗を見た。
にっこりと微笑んでいるはずなのにまるで無表情のように冷たい笑顔。

翼は急に怖くなって慌てて視線を逸らした。

「そう、その通り。
放火の可能性があるだけで、放火だと決まったわけじゃない。それにお父さんはいつも私に人を恨んではいけないと言っていた。だから復讐なんかしてもお父さんは喜ばない。そう思って私は二度とここに来るつもりは無かった...」

「でも君はここに来た。
大好きな父親との約束を破ってまで復讐する事を決めた。何故だい?」

漆黒に浮かぶ赤は全てを見透かす様に光っていて、翼は賢斗は全てを分かっているのではないかという錯覚を抱く。

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