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都内の某所、少し寂れた所にある一つの廃ビル。
人気の無いその場所に似つかわしく無い、制服を纏った1人の少女―鈴村悠希―が緊張した面持ちで佇んでいた。
「ここが……」
誰に言うわけでもなく呟くと悠希は意を決しビルの中へと入っていく。
エレベーターは動いておらず、仕方なく階段で目的地の5階を目指す。
普通なら5階分も階段を上るのはキツいが高校でバスケットボール部に所属している悠希には大して応えた様子は無い。
悠希はやがて1つの扉の前で止まる。
この廃ビルで唯一人が住んでいると聞いた部屋だ。
緊張で震える手を落ち着かせ、控えめにノックする。
少しの間を置いて、どうぞ、という声が中から聞こえた。
まだ若い男の声だ。
恐る恐る悠希はドアを開け、中に入る。
中は意外と広く、闇が広がっていた。
真っ暗なのかと聞かれれば否、電気はついている。
しかし、部屋が黒を基調としている上、全体的に薄暗い為になんだか不安になる。
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