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翌日、登校するとクラスメイトの刺すような視線が賢斗を出迎えた。
「お前、昨日の事カナに謝ってないだろ、謝れよ!」
遼がまず口を開く。
そうだそうだと賛同するクラスメイト。
ここまで綺麗に騙されてるとかえって清々しい、と賢斗は思う。
何も知らない、いや、知ろうとしない彼らにいっそ哀れみさえ覚える。
あー、これだから俺は人間が嫌いなんだよ…
「だーかーらー!
俺は何もやってないって」
「じゃあカナは自分で制服破ったっていうのかよ!」
「んー俺がやってないんだったらそうなんじゃない?」
「馬鹿な事言わないで!」
「困ったなぁ、俺は真面目に言ってるんだけどねぇ」
わざとらしくやれやれ、と肩をすくめてみせる賢斗。
「ていうか、君達、実際に園原さんが襲われてるの見たわけじゃないでしょ?」
「じゃあ何でカナは泣いてたんだよ!」
「目に見えるものがかならずしも真実とは限らないよ?
人間は嘘泣きっていうのも出来るんだからさ」
「じゃあお前には真実が分かるって言うのかよ!」
「仮に俺が真実を知っていたとして、それを俺が君たちに言ったら君たちは俺を信じてくれるのかい?」
「ざけんな!俺はカナを信じてる!」
「そう、まぁ勝手にどうぞ?俺を信じるか、彼女を信じるかは君たち次第だからね、俺を信じてくれとは言わないさ。
いいかい、真実と事実は別物だ。
園原さんが泣いていたのは確かに事実だ。だけどそれが真実とは限らないんだよ?」
クスリ、と賢斗は綺麗に笑った。
人形のように、人間味を感じさせない程、綺麗な笑みだった。
「訳分かんねぇこと言ってんじゃねぇぞ神無月!」
「あぁ、そういえばどうして10月が神無月って言うか知ってるかい?
10月には出雲大社に全国の神が集まるから、出雲以外には神が居なくなる。故に神無月。神の無い月」
ニコ、と賢斗は笑う。
「そう、今は10月だから、神は居ないんだよ。
好都合な事にね」
遼がたまらず賢斗に掴みかかろうとした時、タイミングよくチャイムが鳴る。
皆が席に戻る中、カナは賢斗の前を通るとき「放課後、資料室に来て」と低い声で囁いた。
「よろこんで」
賢斗は優しく微笑むと席についた。
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