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もう何回目かの夏をそこで迎えた。
彼女は夢を見た。
どこか、懐かしい場所。
紅花の花。
紅、と名前を呼ばれた。
そこで彼女は目が覚めた。
心なしか、体調がよくなっていた。
それをそこの和尚に話すと、彼はこういった。
その場所へ行け。今日も同じ夢を見るだろうから、行き方をきけ、と。
言われたとおり、同じ夢を見た。
風に乗って聞こえる声に、必死に聞き返した。どこにいるの、と。
風は紅花を揺らし、花びらをむしった。舞い散る花びらは、彼女の右手首にまとわりついて、組紐になった。風は言った。きっと、それが道を教えてくれるよ。
翌朝起きてみると、体が軽かった。歩けるし、走れる。病が治ったかのようだった。
そうして彼女は寺を後にした。分かれ道に出ると、自然と右手が道を指し示した。
そして僕と出会ったのだ。
ここまでが彼女の身の上話。長かったね。
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