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そのうち、狭い林道へ入った。
そこを抜けるか抜けないかのうちに、紅さんが駆け出した。
僕も追いかけた。
抜けてみると、辺り一面、こんな夕日のような色をしていた。
秋の終わりに、あるはずもない紅花の海だったんだ。
そして、ぼろぼろに崩れた寺があった。
その手前に、人影があった。
紅さんは立ち尽くしていた。
顔を見てみると、ぽろぽろと涙を流して泣いていた。
それから、おしょうさん、とつぶやいた。
その人は、柔らかな光に包まれているようだった。本当に、不思議な感じがしたよ。
紅さんはもう一度、和尚さん、と言ってゆっくりと歩き出した。
和尚さんは仏様みたいに穏やかに笑って言った。
「ああ、来てくれたんだね、紅。待っていた、待っていたよ。ね、約束、覚えているかい。」
紅さんは僕に背を向けていたから、頷いたのしかわからなかったけど、たぶん、例の数珠を差し出したんだと思う。
和尚さんの声が聞こえた。
「ありがとう。これは、私の心の半分だから。これがないと天へ昇れないんだ」
それから、紅さんの体も光にくるまれた。というよりは、和尚さんに抱きしめられたのかな。
このとき、強風が吹いた。紅の花びらが竜巻みたいになって、光を包んだ。
鳴らす人のいない寺の鐘の音が響いた。
あまりの強風に閉じていた目を開くと、
そこは只の荒地だった。
うん、きっと、和尚さんも紅さんも、空へ昇っていったんだね。
さあ、日が暮れるよ、早くお帰り。
今日の夕日は、本当にまっかだなぁ。
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