1どこぞの真っ当な青春を綴った詩か、はたまたライトノベルか。
そんなある意味対照的な書物上だけれど、それらくらいにしか載らない、否、許されない様な陳腐な文章。
今というこの瞬間に自分の頭に浮かんだなんて全くもって笑うしかない。
どちらだって対して読んだこともないのに、こんなのが辞世の句だなんてあんまりだ。
何か別に、もっとこう、自らの人生を表すものでないと。
そこまで考えて、ふと我に返った。
ああ、馬鹿馬鹿しいな。
今から死ぬ人間が、何を必死に考えているんだろうか。
死んだ後の周りの対応など知ったことではないし、まず誰に知られるものでもないのに。
陳腐だろうがかっこよかろうが、後一歩踏み出せば死ぬのだ。
いなくなるのだ、この世界から。
下を見ると、あまりの高さにくらりとした。
何度も見た景色なのに、フェンス一枚越えるだけでこんなにも違って見えるのか。
交差点の信号が赤から青に変わる。
一瞬遅れて、一斉に黒い粒子が動き出した。
ああ、いつか顕微鏡で見た、微生物みたいだ。
そうか、ここからなら人間は鳥よりもちっぽけなのか。
神様が無情なんて言われるのは、きっとここよりもっとずっと高いところにいるから、涙なんか見えないからだ。
どこの宗教に属している訳でもないけれど、ここに立って見ると、色々納得出来てしまう。
無慈悲なんじゃない、わからないんだ。
そしてきっと神様の方が孤独なんだ。
青の光点が点滅を始める。
焦った様に走る黒い点。
どうしてあれが君だって、気づいてしまったんだろう。
いや、踏み出さない右足はそれを待っていたのかもしれないね。
最後に見える世界は君が良い。
こんな我が儘を、君はいつも無意識に聞いてくれる。
青の点滅が、とうとう赤を示した。
ありがとうと、さようなら、それから愛してる。
呟いた3つの言葉が空に吸いこまれてから、そっと宙に足を踏み入れた。
どこまでも蒼い自由な虚無が身体を受け止め抱きしめる。
雲間から射した光に手を伸ばしても、届く訳もなく遠ざかると知っている。
ああだからこそ、ぼくは地へと手を伸ばそう。
大嫌いなそこには誰でもない、大好きな君がいるから。
ぼくにとって誰よりも眩しい一筋の光は下にあるから。
きっとそう、いつだって、
最期の瞬間まで。
ぼくが求めるのは、────
──たった一人だ。
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