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通りを歩く人々は湊とすれ違うと必ずといっていいほど二度見した。
何故なら、湊は自らの住む国、トゥムサでちょっとした有名人だからだ。

この国では15歳になった男子は必ず三年間士官学校に所属しなければならない。
そこで軍や武器、戦い方に関する知識を得るのだ。
そして一番大事なのが、己の力を使う術を学ぶことだった。

この世界の全ての人間は、それぞれ“属性”を持って生まれる。
例えば、燿は火の属性を持ち、炎を操ることが出来るし、蓮は土の属性によって大地の力を操ることが出来る。
各々の属性は殆どが遺伝的なものであり、同じ属性を持つ者は大勢いるが、一人が複数の属性を持つことはないとされている。

しかし湊は、唯一水と氷、二つの属性を持つ者だった。
長い歴史を持つトゥムサの中でも二つの属性を持つ者は湊が始めてで、その端正な顔立ちと士官学校主席という肩書きのせいで、彼は非常に有名だった。

本人はそんなこと全く知りもしないのだけれど。

やがて目的地にたどり着き、湊が教室の扉を開けると辺りが一瞬シン、と静まり返った。

「それじゃ、また後でね湊」
「しっかりやれよ〜」
「……燿、うざい」
「名指し!?!?」

残念ながら二人は最上位クラスにいる湊とは別のクラスに所属している為、彼らとはここでお別れである。
名残り惜しそうにこちらを振り返る二人を無視し、湊は静まり返った教室へ足を踏み入れる。

この空気は彼が士官学校に入学してからずっとであるから、今更気にもならないし、そもそも涼月湊というのは周りの評価や反応といったものを一切気にしない人間である。

成績優秀。
容姿端麗。
けれど著しい表情筋の発達不足により無表情を崩すことのない彼は、その無口な性格もあってか、周囲から敬遠されていた。

周囲の視線などものともしない様子で席についた彼は、いつものように鞄から本を取り出して静かに読み始める。
それを合図にしたかのように周りの生徒達は談笑を再開した。

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