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ぱちぱちぱち。




彼らの背後から拍手が聞こえた。
何事かと振り返った先にある、黒と紫。

「良いものを見せてもらったよ」

にこにこと人の良い笑顔を浮かべながら立つ男は、湊の方へと視線を向けた。

「久しぶりだね、涼月。
また腕を上げたみたいで何より」
「……どうも」

挨拶なのかお礼なのかあるいはその両方を兼ねているのか。
素っ気ない返事と共に湊は目礼を返した。
突然の来訪者にざわめく人混みを押し退けたヴォレクは、男を見ると破顔した。

「ダンフォースか!
どうしたんだ急に!」
「遠征任務終了の報告に来たんでついでに後輩達の様子を見ておこうかと」

教官も元気そうで良かった、と紫色の瞳を細めて微笑んだ男の名前はアラン・ダンフォース。
かつてこの士官学校で学んだ、湊にとっては言わば先輩に当たる人物だ。

「そりゃ嬉しい話だが…トゥムサきっての夢使いと言われるお前がこんなとこで油売ってていいのか?」
「僕にも休暇は必要ですよ、ヴォレク教官。
それに、僕の力なんて涼月に比べたら大したことありません」

そう言って、アランは湊の顔を覗き込んだ。
二つ年下の後輩は、入学する前から有名だった。
どんな奴が来たのかと好奇心に駆られて一年の教室を訪れたアランが見たのは、一見女子かと見間違うかのような中性的な容姿と華奢な身体を持つ、目の前の青年だった。

「君がここまで強くなるとはねぇ」
「……どうでもいい」
「あっはは相変わらずだ!!」

当時主席だったアランは、湊のことを酷く気にかけた。
およそ戦闘に向いてないように見えるのに、戦闘に特化した素質を持った彼を放っておけないと思ったのだ。
結果的にそれは、アランの杞憂だったのだけれど。

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