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そして迎えた午後の実科。
くじ引きで決められた相手との手合せとなるのだが、なんとなく湊の方へと目を向けたヴォレクは彼の対戦相手を見て頭を抱えた。

「今朝ぶりだなぁ、涼月」
「………」

そう、寄りにもよって相手は今朝湊に突っかかってきた彼であった。
自分より上にある相手の顔を、湊は黙って見つめた。
心なしか、辺りの空気全体が緊張しているような気さえした。

背が高く、体格もしっかりしている相手と対峙する湊はいつも以上に細く見える。
普通に見たら、誰でも湊が不利だと思うだろう。

「今朝は中途半端なとこで止められたけどよぉ、これなら誰にも邪魔されねぇ」
「………」
「おいおいだんまりか?」

見下すような笑みを浮かべる相手に対し、湊は表情を変えないままゆっくりと口を開いた。

「……まぁ、別にどうでもいいんだけど」
「あ?」

相変わらず色も温度もない無機質な声だが、何か嫌な予感を感じたヴォレクが止めるより早く、湊は言い放った。

「あんた、俺に勝ったことあったっけ」

びきり、と相手の米神に青筋が浮かび、ヴォレクは額に手を当てて空を仰いだ。

挑発しているつもりではないのだ。
ただ単純に疑問に思っただけで、決して相手を馬鹿にしたわけではない。
そしてそれ故タチが悪い。

あぁ、もうどうにでもなれ。

完全に頭に血が上った相手と、そんなことに気づきもしない湊を見てヴォレクは諦めのため息を吐いて号令を下した。

「はじめっ!」


キィン、と金属同士がぶつかる音が周囲に響いた。

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