「…え?上京したい?」

僕の隣に座る琴子は、肩で綺麗に切りそろえられた髪を揺らして頷いた。

彼女の話によれば、東京に彼女の好きな園芸の店が出来たから行きたい、とかそういうことなのだそうだが、高校生の女の子が園芸専門店を見るためだけに東京へ向かうというのは少し勇気がいるのだろう。

…殊に、こんなに内気な彼女では。

正直言ってしまえば僕の方も、彼女を一人であんな大都会に大手を振って行ってらっしゃいとは言い難い。
(他の男にでも絡まれたら、琴子が断れる筈もない!)

理由は下心しかなかったが、琴子も一緒に行こうと誘ってくれたわけだし、上京することになった。

約束の日。

琴子を待たせてはいけないと思い、待ち合わせ時間の10分前には着くように家を出た。
着いてみると……既に琴子は待ち合わせ場所にいた。
琴子の私服がかわいい。

「琴子、早いね。待った?」
「大丈夫。店に行くのが楽しみで少し早く出たの。」
「そっか。じゃあ行こうか。」

改札を抜け、ホームで電車を待つ。

「次の東海道線は……5分後か。」

僕らが東京に行くことなど滅多にない。
高校も地元にあるし、普段遊ぶだけなら駅前にゲームセンターやショッピングモールがあるから困らないのだ。
中学の友人で東京の有名な進学校に進んだ奴もいたが、朝の通学が大変だと言っていた。

来た東海道線普通東京行に乗る。
東京までは1時間弱だ。
琴子の話を聞くに、琴子が東京に出るのははじめてなのだそうだ。

「普段は地元の小さい園芸店で買ってるんだけど。やっぱり大きい専門店じゃないと売ってないものもあるの。」
「そうなんだ。琴子が園芸好きだってはじめて聞いた。園芸部入ってるんだっけ?」
「あんまり知られてないけど、私、園芸部部長よ。」
「……知らなかった。ごめん。」
「別に謝ることじゃないわ。私も全然そういうの誰にも話してなかったし。」

彼女はその後学校の花壇の花について詳しく話してくれた。
園芸の話をしている琴子はとても楽しそうだ。

横浜で東急東横線に乗り換える。




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