「…あのさ、僕達さ、会ったことある?」
恐る恐る彼女の記憶を確かめるように聞いてみる。
「さぁ、どうでしょう」
それは、否。
喉の奥が焼けるように痛かった。
どこか、泣きたい時の喉の痛みに似ていると思った。
僕は、昔の彼女を思い出せないでいた。
此処に住んでいたことも覚えていなかった。
それは、ちょうど、彼女がたった今僕を目の前で忘れたように、空洞なのに似ていた。
『薫君は優しいから』
『また、仲良く出来ると思って』
彼女は思ったじゃないか。
どうして、そのまま、記憶はとんでしまったのか。
数字と、事務的な事だけが処理されて残った。
「…なんで覚えてるかなあ」
いっそ、全てを忘れてくれたら良かったのに。
少しだけ、期待しちゃうじゃないか。
また、思い出してくれると。
「うん、初めまして」

それは、もしかしたら何度も何度も繰り返された初めましてなのかも知れなかった。


そうっと手を伸ばして、今度は彼女から手を差し出してくれるのを待つ。

――――握りしめた手は、静かに熱だけが奪われていった。


彼女のほほ笑んだその顔は、僕のことを一生思い出せなくてもいいかもしれないと思うほどに、やっぱり変わらず愛おしかった。




君と僕とブラウン管 第一章[完]



[ 11/13 ]

[*prev][目次][next#]

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -