「…しんど」

噂の「未来を写すテレビ」とやらを探し始めて10分ほど経ったのだが、はっきり言うと、このひとつひとつ電源ボタンを押してく作業はひどく単調で、もう既に飽きてきた。何か一目でわかるような特徴があればいいのに、ぼやきつつ次のテレビに手をかけた。

「ん?」

他のものと型が違い、電源の位置も前面ではないようだ。
側面を覗くと、電源があった。

そして、その少し横に何かが彫ってあった。

「コ、ト、コ…?」
コトコ、と言ったら思い浮かぶのは一つしかない。
岬琴子。僕に「危険なテレビ」探しを始めさせた張本人。
(これが琴子の探して欲しかったテレビだろうか。何が危険なんだ。)
今にも消えてしまいそうな、頼りない文字をじっと見つめた。
その横に、文字を刻んだ痕があるのを見つけた。
先ほどよりも顔を近づけて凝視する。それから指先でなぞる。
「ヤ…オ、レ、じゃないな、ルか。」
ヤオル。なんだそりゃ。
(あ、もしかして)
「ヤじゃない、カだ、きっと。」
カオル。
僕と同じ名前。なんという偶然。
しかし、なぜだかそれは本当に偶然であるように思えなかった。偶々だと理解してるのに、胸がざわざわしている。
いいや、十中八九、友達の名前だろう。なぜテレビに印したかはわからないが。

とにかく琴子に、探してたのはこのテレビなのか確認しよう。
そう決めて、教室に戻ろうと立ち上がり一歩進んで、そこで足を止めた。
半開きになっていたドアの外に、琴子が静かに立っていた。

正直、心臓が飛び出るかと思った。

琴子の色素の薄い目は僕というより、テレビの山を見ているようだった。そのどこか儚げな様子に、どきっとしたのは、言うまでもない、というより口が裂けてもいえない。

「岬、なんでここに。」

彼女はようやく僕に焦点を合わせた。
「雪村君、トイレでも行ったのかな、と思ったんだけど、なかなか戻ってこないから、もしかしたらと思って。」
では、そんなに前からここに居た訳ではないようだ。
「あのさ、それっぽい奴、見つけたんだけど。」
琴子は、あ、と一言零して、少し目を伏せ俯いて、「ありがとう」と言った。

「あ、でも本当に合ってるかわかんないから、確認して欲しいんだ。コトコって彫られたのなんだけど、」
僕がそういうと、彼女は首を横に振って言った。
「合ってるよ。名前の、書かれたのでしょう。」
そして、小さく、深く息を吸うと、緊張した面持ちで告げた。

「雪村君に、言わなくてはいけないことがあります。」

その双眸は、僕を真っ直ぐに見据えた。




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