no title

彼女がはっと目を開けると、空は既に薄暗かった。
重い頭を振ってのろのろと身体わ起こす。
いつの間に寝たのか、記憶に無かった。
夢の内容を思い出すと、頬に一筋の涙が落ちる。

彼女、棗 佳代(なつめ かよ)が一人息子である圭佑を事故で失ってから約二年が経っていたが悲しみは癒えるどころか積もっていくばかりだ。
圭祐が死んでからは夫婦仲も拗れてしまい、夫である和樹とは結局離婚してしまった。
こうして一人で居ると時たま今の様に圭祐が死んだ時の夢を見る。
佳代はその場に居たわけではないのでその時の様子など分かるはずもないのだけれど。
頭を一つ振って佳代は買い出しに行く準備をした。


ちょうどスーパーから出た時、ポツリと雨粒が落ちてきてたちまち本降りとなった。
傘を持っていなかった佳代は慌てて帰ろうと足を早めるが最悪な事に信号で足止めをくらってしまう。
雨が容赦無く身体を濡らす中、通り過ぎて行く車を見ていると先程見た夢のせいもあって再び意識が圭祐の死へと飛んで行く。

「大丈夫ですか?」

不意に頭上から声が掛けられ、降り注いでいた雨が止む。
はっと我に返ると茶色い髪の青年が気遣うような顔をして傘を差し出してくれていた。
どうやらそのまま固まってしまい、信号が青になった事に気づかなかったらしい。

「あ、ごめんなさい…」
「いえいえ。
あ、もしかして傘無いですか?
なら僕のこれ使って下さい」

なんてことの無い様にさらっと青年は言ったけれど、佳代がぼんやりしてる間に雨足は強くなり今は土砂降りに近くなっている。
さすがにこの雨の中見ず知らずの青年に傘を借りるわけには行かなかった。
信号は再び赤に戻ってしまっていた。

「いえ…」
「あ、僕の事は気にしないでください。目的地どうせすぐそこなんですよ。
女性をこの雨の中放り出すことも出来ませんからね」

にこ、と微笑んだ彼は、佳代の表情を見ると忽ち残念そうな顔をした。

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