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白く白く、されど何よりも鮮やかな白昼夢。
甘やかに艶やかに、くるくると世界は廻り出す。さぁ、始まりの喇叭は鳴らされた。
少女はうさぎを追って走り始め、夢への扉が開かれる。
落ちた深い地の底の、悠久の一瞬が繰り返される脆く儚い幻想の淵。
小さくなって、大きくなって、
たくさん泣いて、流されて、
奇妙で偏屈な芋虫に出会って、
にやにや笑いの猫に出会って、
帽子屋と三月兎と終わらないお茶会をして、
女王と遊んで、裁判をして。
君は幻惑の中で現実を知り、不条理の中で条理を得、少しずつ少女の殻を脱ぎ始めるのだろう。
うさぎを追いかけたはずが、いつの間にか追い抜いていたことにも気づかずに、一人慌てて目を覚まそうと藻掻くのだ。
いつまでも少女でいられる不思議の国は、されど少女から無知を奪ってしまった。
きっと今にも目を覚まし、彼女は大人になるだろう。
私の愛した無邪気で残酷な子供の君は、永遠に過去に奪われる。
だから、そう。
手遅れになるまえに。
君を「本」に綴じ込めよう。
文字があるから終わりを生むというならば、白紙のページに挟まれた、決して終わらぬ物語を紡げば良い。
さあお眠りよお嬢さん。
君は美しく残酷で無垢なまま、白紙の輪廻に囚われるのだ。
白く白く、されど何よりも鮮やかで甘美な永遠を。
終わらぬ夢を、私は君に捧げよう。
Prelude dedicated to the girl
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