no title
黙ってしまった静貴を不思議に思った賢斗は、ふと彼の側に何か見慣れぬ物が置かれているのを見つけた。
「静貴、それ何?」
「ん?あぁ、すっかり忘れてた。
今日たまたま見つけてな、気になったから買ってきちまった」
ほら、と見せられたそれは黄色い花の鉢だった。
綺麗、というより可憐なそれは静貴には少々不釣合いな気がした。
「静貴、花似合わないねぇ…」
「うっせぇ!
良いんだよ、お前に買ってきた奴だから」
「ぼくに?何で?」
首を傾げた賢斗を静貴は優しい目で見つめてそっと屈み込む。
目線を賢斗に合わせると、彼の赤い瞳がよく見えた。
「これな、クリサンセマム・ムルチコーレって花なんだと」
「…ややこしい名前だね」
「まぁな。
それで、この花の花言葉知ってるか?」
静貴の問いに賢斗は首を横に振る。
あまりその手には興味が無かったのだろう。
とは言え、静貴も花屋の店員に教えられるまで全く知らなかったのだが。
「花言葉は、『誠実なあなたでいて』なんだってさ。
だから、お前に買ってきた」
「何それ、どういう意味さ?」
不満そうな顔で賢斗が静貴を軽く睨むが静貴は相変わらず暖かい目で見つめると賢斗の頭を撫でる。
いつもの様にぐしゃぐしゃにするのでは無く、慈しむような優しい手つきだった。
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