no title

「あら、賢斗君が気に入ったのかしら?」

「良い男は辛いなぁ、賢斗?」

「…馬鹿な事言わないでよ、静貴」

茶化すような瀬奈と静貴の言葉に不機嫌そうに答えて賢斗は琲音から視線を外す。

にこにこと笑顔で賢斗を見る瀬奈は静貴に視線を戻すと少し真面目な顔で尋ねた。

「それで、何か収穫はあったのかしら?」

「いや、残念ながらお前が期待するような情報は無いぜ。
連中も案外口が堅いからな」

「そう…それは残念ね。
中々新しい情報が入ってこなくて困ってるのよ」

「とか言って、実は殆ど分かってるんだろ?」

「ふふ、どうかしら?」

交わされる二人の会話に、突然幼い声が混ざる。

「…あんたも闇医者なの?」

その質問が幼い少年の口から発せられたものだと理解するのに、瀬奈は思いの外時間を要した。

それからゆっくりと静貴の方へ向き直ると恐る恐ると言った様子で尋ねる。

「貴方、まさか話したの?」

「まぁな。隠せるようなもんでもねぇし、寧ろ知っておいて貰わないと困るだろ?何が起きるか分からない世界だからな。お前だっていつかは琲音ちゃんに話さなきゃなんねぇ立場だろ」

肩を竦めながらそう答えた静貴を少し呆れたように見て、再び賢斗に向き直る。


「私は静貴とは違って闇医者じゃないわ、ただの情報屋よ」

「情報屋?」

「そう、色んな情報を売ったり買ったりする仕事。静貴と同じで裏仕事ね」

「ふぅん…」

聞くだけ聞くと、もう興味は無いとでも言いたげに視線を外した賢斗に苦笑して、その後また少し瀬奈と話した静貴は、数時間後瀬奈のマンションを後にした。

「最近は色んな所で色んな火種が撒かれてる。いつそれが燃え上がるか分からんが…気をつけろよ、瀬奈。お前には琲音ちゃんも居るんだし」

「貴方もね、静貴。無理はしないで。貴方にだって賢斗君が居るんだから」

お互いにそんな言葉を掛けあって。
二人のその危惧が現実となるのは、それから二年後、賢斗が十歳の時である。

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