no title
ようやく静貴の興奮が収まった頃、そういえば、と静貴は不満そうな目をする賢斗に問いかけた。
「賢斗、お前学校行きたいか?」
「何、急に」
「いや、一応俺が勉強教えてるとは言っても同年代の子と一緒に居た方が…」
「嫌だ」
静貴の言葉を遮って賢斗は即答する。
顔にははっきりと拒絶の色が浮かんでいた。
「絶対、嫌だ」
「…そうか、なら良い」
無理に行かせる事も無いだろう、と静貴はそれ以上言わなかった。
後でなんなら偽装して戸籍を作る事も出来るぞ、と聞いてみても、賢斗は要らないと言った。
今更だし、ぼくには戸籍が無くても名前があるから良い、と。
そんな賢斗に少し複雑な思いを抱えてから数週間後。
「賢斗、出かけるか」
思えば彼はここに来てから殆ど外に出ていない。
賢斗自身があまり出かけるのは好きでは無かったのと、始めは体調を崩していたせいもあったが、今ではすっかり回復しているし、この歳で引きこもりもよろしくない、と思ったのだ。
「何処に?」
余り人の多いところは嫌だよ、と八歳児とは思えない台詞を吐く賢斗に苦笑しながら静貴は言った。
「俺の昔馴染みんとこだよ。
仕事仲間でもある」
「へぇ…まぁいいけど」
了承の返事をした賢斗と共に、静貴はマンションを出る。
目立つのは嫌だと言って、賢斗はその赤い瞳を眼帯で隠していた。
勿体無いとも思ったが、他の人が賢斗の左目を見た時の反応など簡単に予想出来た。
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