no title

無言で頷いた少年ー賢斗ーを見て静貴は優しく微笑んだ。

「賢斗」

そう呼ぶと、彼はゆっくりと顔を上げた。
青白い彼の顔に、少しだけ赤みがさしたように見えた。

「いいか、賢斗。
終夜ってのはな、その字のまんまだが夜が終わる…夜明けの事を言うんだ。
お前は夜明けに似てるよ」

「それ、どういう意味?」

「そのままの意味だよ。
お前のその左目…お前の抱える闇そのものの左目の事で苦しむ事もこの先多いだろう。だけどな、賢斗。
いつかお前のその赤い瞳を綺麗だと言ってくれる奴が、俺の他にきっと現れる。その時はきっと、それがお前の光になるだろう。夜明けのお前を引っ張ってくれる、朝日のような奴がきっと、この先現れる」

自分が出来るのは、彼を夜の一番深い所から引き上げる事だけだ。
そこから更に引き上げるのは、これから彼と出会う誰かだろう、と漠然と静貴は感じた。

いつになく真面目な顔をした静貴に言われた言葉を暫く考えていた賢斗は、静貴から視線を逸らして言いにくそうに言った。

「…静貴がこの目を綺麗って言ってくれたから…ぼくはそれだけで良い…」

「………」

「…黙んないでよ」

先程と立場が逆転したように今度は静貴が沈黙する。

「かっわいいなこの野郎!」

「うわ、ちょっと!」

数秒の時間をかけて賢斗の言葉を咀嚼した静貴は次の瞬間賢斗の頭をわしゃわしゃと掻き回す。

(マジで天使じゃねぇの!?)

賢斗の抗議の声を聞きつつそんな親バカのような事を思う。

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