no title
「ぼくの存在自体が世間じゃイレギュラーなんだ。今更そんな事気にしないよ。それにぼくは静貴がお人好しだって知ってるしね」
「それは褒めてんのか?」
「さぁね。
あと一つ質問。なんで静貴は闇医者になったの?普通の医者じゃ駄目だったの?」
少年の問いに静貴は少し真面目な顔になって考える。
「俺はな、人が好きなんだ」
怪訝そうな顔をした少年の目を見て、静貴は言葉を続ける。
「普通の医者は沢山いるだろ?
普通の人は堂々と治療して貰える。けど裏の奴らだとそういうわけにもいかない。
命は誰のだって平等なはずだ。それが例え極悪人だろうが、な。
俺は命を平等に救いたい。だからだ」
「…変なの。人が好きなんて」
ぼそり、と呟かれた言葉に静貴は悲しそうな顔をした。
彼が人嫌いなのも最もだと思う。
左目が赤い。ただそれだけで存在する事さえ許されなかったのだから。
だけど、それは彼をより孤独にするだけだという事も、静貴は理解していた。
「俺は、お前が人が嫌いでもお前が好きだぞ?」
「…………」
「あの、無反応って悲しいんだが」
「…ぼくは」
「…ぼくは…人は好きじゃないけど…静貴の事は嫌いじゃない」
十分な沈黙の後でそっぽを向きながらボソボソと呟かれた言葉に、静貴は破顔した。
少年の頭をわしゃわしゃと撫でると、彼は不機嫌そうにその手をどけ、そっと自分の赤い左目に触れると独り言のように呟いた。
「ぼくの左目が何で赤いかなんて分からない。
ぼくは人が嫌だし、世界はぼくが嫌いなのかもしれない。
だけど…なんでだろうね、静貴。
それでもぼくは、世界が好きなんだ」
少年の言葉に、静貴は泣きそうになった。
散々な思いをして、人は嫌だと、それでも世界は好きだと言う。
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