no title
そんな少年を見た静貴は、ある時彼を自分の書斎に通した。
本という本で埋まったその部屋を見て、少年が目を輝かせたのは言うまでも無い。
「ここにあるやつ、好きに読んで良いぞ。
まぁ殆ど大人向けだし専門書なんかもあるがそれくらいの方がお前にはちょうどいいだろ」
ぽんぽんと少年の頭を叩きながら言うと、いつもはすぐ静貴の手を払いのける少年は、心底嬉しそうな笑顔を浮かべて礼を言った。
「…ありがとう…!」
(何この天使…!)
初めて見る少年の無邪気な笑顔の破壊力に暫し静貴は悶える事になる。
早速少年は書斎を歩き回り、何冊か見繕うと床に座り込んで読み始めた。
一度読み始めると周りの音が一切聞こえなくなったようで、少年が集中している時の癖で、親指を口元に当て何かを呟きながら
目はひたすらに活字を追った。
(これが所謂天才って奴かねぇ…)
その驚くべき集中力を見て、静貴はそう思った。
少年を教えていて分かった事がある。
彼は賢い。
学力的な面だけでなく、育った環境のせいもあるのだろうか、人の表情から感情や考えといったものを読む事に長けていた。
(それが吉と出るか凶と出るか…
天才ってのは良くも悪くも独りになり易いからなぁ。
杞憂だと良いんだが)
静貴は少年が賢い事も、優しい事も知っていた。
それが裏目に出ない事を、静貴は密かに祈った。
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