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「君、ここに何か用かい?」
ナイフを仕舞いながら真希を見る事無く問う。
もっと大人しい人だと思っていたのに、些かイメージと違った。
「え?あぁ、お弁当食べようと思って!」
「そう、じゃあ俺は失礼するよ」
そう言って腰を上げた賢斗を真希は呼び止めた。
「終夜君も一緒に食べない?」
「遠慮しておく。
俺は食べるものも無いしね」
「えぇー…二人の方が楽しいよ?」
真希のその誘いに、賢斗は足を止め振り返るとにこやかな笑みを浮かべて言った。
「それは君の価値観だろう?
君が楽しくても俺は楽しくない」
真希は、それがよく出来た作り笑いだと気づく。
昔から人の笑顔が大好きで大好きで、様々な笑顔を見てきた真希が一瞬騙されそうになる程に器用に作られた笑顔だった。
「ねぇ終夜君。僕は笑顔が好きだけど、作り笑いは嫌いなんだ」
今度は真希が作り笑いでは無い笑顔を浮かべて賢斗に言った。
すると賢斗は一瞬にして表情を消した。
「…笑顔が好きだって?」
理解出来ない、という思いを滲ませた声だった。
「うん!大好きだ!
例えそれが嘲笑の類であったとしても、偽物の笑顔で無いならば僕はその笑顔を愛するよ!
誰かが笑ってくれるなら、僕は他の何を犠牲にしても構わない!」
これ以上無いくらいの笑顔で言う真希。
それを見て賢斗は面白そうに目を
細めた。
「それじゃあ君は人間が好きかい?」
「そりゃあね!だって人間が居なければ笑顔は無いんだから!
だからね、誰かが笑えば誰かが泣く、今の世の中が大嫌いだ」
「っ、ははっ…」
その時、小さな笑い声が聞こえて真希は言葉を止めた。
見ると、賢斗が俯き、肩を震わせて笑っている。
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