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それから数日後、賢斗の予想通り賢斗を襲おうとした生徒達は転校した。
いや、彼の予定通りと言うべきか。
一度に数人が転校した事に、初めは不思議がっていた生徒達も時間と共に騒がなくなった。
そのまま春休みを迎え、しばらく真希は賢斗と会わない日々を過ごした。
あの事件の後も真希は賢斗に付き纏っていたが、賢斗の真希に対する態度は軟化する事無く相変わらず冷たいものだった。
そして新学期初日。
一年前と同じように真希は掲示板で自分のクラスを確認した。
クラス替えにより、メンバーも大分変わっている。
その中に、よく知った名前を見つけて真希は思わず微笑んだ。
(ーー珍しい名前だから、目立つよね)
早足で、自分のクラスへと向かう。
ガラリと扉を開けると数人が真希に挨拶をした。
笑顔でそれに答え、教室を見回す。
ーー居た。
教室の一番後ろ。
誰とも話す事なく窓の外を眺める彼の姿。
その左目は今は黒いが、真希はその瞳の本当の色を知っている。
「おはよう、二年C組出席番号十番終夜賢斗君」
すると彼はゆっくりと窓の外から真希へと視線を移し、心底嫌そうに彼は眉を寄せた。
「また君と一緒とはね。二年C組出席番号二番朝日屋真希君」
「僕は嬉しいよ、賢斗!
今年こそ、君の本当の笑顔を見てみせるからね!」
「無駄だと思うけどねぇ。
俺は人間を喜ばせるような事はしないから」
賢斗と一緒に居て分かった事がある。
それは、賢斗の笑顔には様々な種類がある事。
彼は本当に器用に笑顔を色々な浮かべる。
それらは全て本物だが、真希はまだ賢斗が心から楽しそうに笑う純粋な笑顔を見たことがなかった。
賢斗の心からの笑顔を見る…それが真希のささやかな目標だった。
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