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良く回る口だとに呆然としつつ、娘とカイは会話の方向がずれていることに気付いた。

アルは黙って何も言わずに眺めている。

「だからごめんね、これは返してくれるかな」

そう言って娘の手を放した彼の手に握られていたのは、黒い財布だった。

「あ…!?
僕の……!」

気付いたカイが声を上げる。

派手男は青ざめている娘から視線を外さずに微笑んだ。

「さっきの男には、君とは手を切るように言い含めて置いたから、君はもう自由だよ。
それじゃ名残惜しいけど、俺は彼らと話をしなきゃならないから。
あ、君もさっき見たものは忘れてね。
その方が身のためだからね」

一方的に話をきり、ようやくアルとカイの方へ向いた。

「はい、君の財布だろ?」

事実に呆然としていたカイは、目の前に差し出された財布を見てはっと意識を戻した。

「あ、ありがとうございます…」

振り返ったが先程の娘は既に雑踏に紛れていた。

「全然…気付かなかった」

「おい、何で逃がした」

アルは冷え込んだ声で尋ねた。

「さっきの蔓…お前も竜人だろう。
バレたらヤバいんじゃねぇのか」

先程の男達の足に絡みついていた蔓は地面から生えていた。

いくら地属性に優れた魔導師でも、新たな命を生むことは出来ない。

あれは紛れもなく竜の魔力だった。

「あぁ、大丈夫さ。
彼女は人に買われた印があったからね。
軍への接触は出来ない」

「………ふん」

バカではないらしい。

「で、結局お前は何なんだ」

「ああ、そっか!
自己紹介を忘れてたよ!」

彼はすっと地味なブレスレットを着けた右手をかざし、茶色く色付いた鱗の様な痕を見せる。

「俺はアッシュ。
アッシュ・リンゼンブルグだ。
見ての通り、地属性の竜人族だよ。
契約竜はナデシコっていう女の子で、今はこのブレスレットになってる」

ほんの少し、挨拶をする様にブレスレットが光った。


‡ ‡ ‡


「じゃ、君たちについても聞かせてくれよ」

3人は大通りにあるカフェの一番隅の席にいた。

アッシュの自己紹介後も大通りで話を続けようとしたが、彼が絶え間なくすれ違う女性を口説き出すので話が進まず、キレたアルをカイが宥めて近場にあったそこに押し込んだのだ。

出来ればバーとかだと良かったんだけど、と思いながらカイは右肩を晒した。

緑色の鱗の痕が覗く。

「カイです。
風属性で、契約竜はウェンディって言います」

「あんな今時ないシチュエーションにひっかかる史上最強のお人好しだ」

「ち、茶々入れないでよアル!」

「よろしくーアッシュ」

翠竜は契約主を気にせずひょこ、とカイの服から顔をだし、のんびりと挨拶する。

「あ、だめだよウェンディ。
誰かに見られたら」

「大丈夫だって。
隅っこの席だから誰も見てないよ。
ねぇ、ナデシコと話させてもらっていい?
ブレスレットのままで大丈夫だからさ」

「うんどうぞ」

アッシュはウェンディにブレスレットを渡し、彼らの対話の様子を興味深そうに眺めた後アルに向き直った。

「んで君は?
アル……だっけ」

「…………アルフレッドだ。
お前にアルと呼ばれる義理はない」

不機嫌さが声に染みでている。

「どっちでも構わないけど、君も竜人族だろ?
鱗と契約竜は紹介してくれないの?」

その質問に、アルは試す様にアッシュを見、それから小馬鹿にする様に自らの左の鎖骨近くにある鱗を見せる。

「あぁ、竜人族だぜ?
お前ら『正常』な竜人族に出来損ないとか偽物とか言われてる可哀想な、な」

彼の鱗は色がない……透明なものであった。

「鱗が透明…?
どういうことさ?」

訝しげに尋ねた彼に、アルはもう一度嘲る様に笑った。

「俺には…契約竜がいないんだよ。
『竜人』族なのにな。
お笑い草だろう?」

アッシュは、アルの小馬鹿にした態度が自分ではなくアル自身に向いていることに気付いた。


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