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そして、ローブが剥ぎ取られた。

男の動きは一瞬止まり、後ろの娘も「え…?」と硬直してしまっている。

カイの肩にあったのは、荷物でも武器でもなかった。

そこにいたのは一頭の翠色の小さな竜。

名をウェンディにして、カイの契約竜である。

状況が読めていたものの、いきなり視界が開いた彼は目を瞬いていた。

「り、竜人族……!」

気を取り戻した男が軍を呼ぶために大声をあげようとした。

「ちっ!」

舌打ちしながら、多少の騒ぎになること覚悟で男を黙らせようとアルが魔力を込め始めた瞬間。

「衛兵ーー!!
ここにりゅぐわ!?」

男とウェンディを目にしただろう人々が急に道に倒れた。

「なっ……」

アルが突然の事態に驚いて倒れた人々を見ると、植物の蔓が足に巻き付いている様である。

「女の子を守ったのは偉いけど、場所は選んだ方がいーんじゃないかと俺は思う訳なんだよね」

次いで、少し間延びした男の声が聞こえた。

「君、そこんとこどう思う?」

目を向けると妙に派手な頭をした男がカイに話かけながら、さりげなくウェンディの上に剥がされたローブをかけていた。

やたらと跳ねた茶髪に緑のメッシュ。

肌は褐色で健康そうだ。

「え、えっと…す、すみません……?
あ…アル!!」

派手男の会話に流され呆然と謝っていたカイだったが、近付いてくるアルの姿を見て安心したように声をあげた。

「おいカイ、堂々と人混みで情報漏洩するんじゃねえ。
呼ばなくても向かってるだろうが」

「ご、ごめん…」

アルは一瞬だけ謝るカイに目を向けたが、すぐに派手男を見据えて尋ねた。

「あんた、何者だ」

カイに対してとは打って変わった、感情の隠っていない不信感駄々漏れの声。

しかし派手男は少しも気にしていない様子で答えではなく問いを返した。

「君、彼の連れ?」

質問を無視されて不機嫌になったアルを心配し、カイは代わりにそうです、と答える。

「人の質問に答えろ。
…お前も素直に対応してんじゃねぇよ。
こいつ俺らが何か分かった上で話しかけてんだぞ」

「ふーん。
俺ら、ね。
そっかそっかー!!
じゃ君もかー!!」

不躾なアルの態度も意に介さず1人で何やら嬉しそうに納得した派手男はそのまま周りに目を向けた。

ウェンディの姿は目にしていないものの、数人の急な転倒に驚いて、小さな人だかりが出来ていた。


「皆さん気にしないで下さーい!
ちょっと勘違いによるトラブルだから。
あ、軍兵さん方も来なくていいよー!!
この人何か不利になったら軍兵さん呼んじゃう弱虫みたいでさ!
お騒がせしてすんませんっ!!」

ニコニコ笑顔で人だかりを散らせ、男の呼ぶ声に応じて近付いて来ていた軍兵を戻らせた。

それから足元に転がる男と可哀想な数人の町人達を見て

「あ」

と彼らの前に座り込み二言三言ずつ話していく。

彼と話終えた人々は皆一様に顔を青くして今にも泣き出しそうな表情をしていた。

「今見たこと全部忘れるよね?
じゃないと、ねぇ?」

周りを歩く人々には彼が笑顔で何か話している様にしか見えなかったろうが、側にいたアルとカイには、低い声で紡がれる言葉もチャキ、とコメカミに当てている銃口にも気付けた。

全員がコクコクと頷いたのを見て、

「ありがとー!!」

と変わらぬ笑顔で礼を良い、やっとこちらを向くかと思えば今度はカイが助けた娘に向き直った。

娘は去って良いのか留まらねばならないのか迷う様に、所在なさげに立っていた。

派手男は彼女に近付くと、いきなり彼女の手をとって口付ける。

「!?
あ、あの…?」

「可愛らしいお嬢さん。
君が無事でほんっとうに良かった……!」

いきなりのことに驚いている娘に対し、派手男は表情豊かに話続ける。

「助けるのが遅くなってごめんね。
怖かったよね」

助けたのはお前じゃねぇだろう、とアルは心の中で突っ込んだ。

「大丈夫?
怪我はしてない?
うん、良かった!
君みたいな可愛い女の子は健康でなくちゃね!
元気な女の子は世界の財産だし。
それから、小悪魔みたいな君もそれはそれでギャップがあって良いんだけど、俺は君みたいな女の子には綺麗でいて欲しいんだ。
せっかく天使の様に可愛いんだしね」


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