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「次はお前の番だぜ」
未だに打ちつけた所を痛がるアッシュと、それを慰めるカイの姿を横目にアルは先程から壁にもたれたたり、腕を組んでいるソウに話を向けた。
メンバーの視線がアルからソウへと移る。
気だるそうに壁から離れると、ソウはぐるりとアジト内とカイ、アッシュ、ユアン、アイリスを見ると一言だけ言った。
「30点」
「は?」
その場に居た皆の声が重なった。
「駄目だな、全然駄目だ。
及第点には程遠い」
そう言ってから彼はアルを見るとニヤッと笑った。
「まぁ祖竜の契約者込みで50点ってとこか?
それでも及第点以下だが」
「そろそろ話してくれ、君は誰なんだ?私達が知るソウはどうしたんだ?」
痺れを切らしたアイリスが詰め寄ると彼は心底面倒くさそうに答えた。
「そう焦るなって。
俺も記憶が全部あるわけじゃねぇんだ、分からない事もある。
それに、俺が覚えてる範囲だけでも少々ややこしい話なんだよ」
そう前置きしてソウは、いや、ソウの姿をした誰かは語り始める。
「まず、俺はソウであってソウじゃない
俺のこの身体は間違い無くお前らの知ってるソウのものだ。この間の刺し傷もちゃんとあるぜ?そういう意味では俺はソウだ」
そこで一旦言葉を切ると、彼はぐしゃりと髪をかき上げた。
眼鏡をしていないソウの冷たい、青い瞳がアルには一瞬藍色に見えた。
「だが、精神面で言えば俺はソウじゃない。
二重人格って言えば分かりやすいか?まぁそれとは少し違うんだが似たようなもんだと思ってくれ。この一つの身体に俺とソウ、二人分の魂が入ってる。俺はソウの間の記憶があるが、ソウには俺の間の記憶は無い。というかそもそも俺の存在を忘れてるんだな。
で、アルフレッドが感づいたように俺の属性は闇だ。まぁソウの水と氷も使えるが。
以上、何か質問は?」
長い説明を終え、彼は再び腕を組んで壁にもたれ掛かり、アル達を一瞥する。
「ソウは記憶は無くしてるが君は?」
アイリスの質問に、彼は何かを考えるように暫し目を閉じた。
「一応は、ある」
「一応?」
「さっきも言っただろ、全部覚えてるわけじゃねぇんだ。
ただ、俺達がここに来るまで何があったのか、俺達は何者なのか…そこら辺を漠然と覚えてるくらいだ」
そう語る彼の表情が曇る。
まるで、覚えている事を嫌がるように。
「それをソウに教える事は出来ないのか?」
「出来なくは無いが…知らない奴からの話なんて信じるか?普通。
それに俺はあいつに思い出させるつもりは無い」
「なんでだよ?」
アッシュの疑問ももっともだ。
ソウは過去を知りたがっているのだから。
「お前には関係ない。
まぁ敢えていうなら、知らない方が良いからだ。
自分が誰かなんて…知らない方が良い」
最後は自らに言い聞かせるように言うと、他に質問は?と問いかけた。
「お前は味方か?」
アルは鋭い視線で彼を見ながら問うが、彼はアルの視線を気にする事なくニヤッと笑った。
「俺はソウの味方だ」
「では、私達に力を貸してくれるか?」
先程の戦いを考えると、彼は大きな戦力になる。
あのドラゴンスレイヤーに致命傷を負わせたのだから。
「時と場合による。
あの時はたまたまドラゴンスレイヤーが俺の敵だった、ってだけだ。
簡単に傷を負わせられたのもあいつらが俺が出てくる前にアルフレッドとの戦いで消耗してたからだろうしな。
変に期待するなよ。俺はあくまで裏だからな」
退屈そうに言って、彼は再びレジスタンス内を見回す。
明らかに値踏みするような視線だった。
「あ、お前の名前は?」
ユアンが肝心な事を聞きいていない、という顔で尋ねた。
「…イアルだ」
「イアル、ね。了解」
「っと、そろそろ時間か。
楽しい質疑応答の時間も終わりだな。俺は戻るぜ。
あぁそうだ、この間の傷だが、俺が無理矢理塞いだだけでまだ完治してねぇからあいつに無理させんなよ?
それと、お前らもうちょい修行した方が良い。今の戦力じゃお話にならない」
言いたいだけ言って、イアルはそっと目を閉じた。
すると、糸が切れた人形のようにソウの身体が崩れ落ちた。
それを慌ててアッシュが受け止めた。
「アッシュ、彼を医務室まで運んで頂戴。
もう一回検査しないといけないわね」
クロエの冷静な指示に従い、アッシュはソウを医務室へと運んで行った。
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