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それは、その場には聞こえるはずの無い声。
仮に聞こえたとしても、今の口調はアル達が知る彼のものとはかけ離れていた。
まさか、と思いながらアルが振り返るとそこにはニヤニヤと笑みを浮かべているーーソウが居た。
「ソウ!?何で!?」
いち早くその姿に気づいたアッシュの声に続き、他のレジスタンスメンバーも次々と驚きの声をあげる。
当たり前だ、彼は重症で眠っているはずなのだから。
そんな皆の疑問には答えず、ソウはアルの隣へと歩み寄った。
「お前...誰だ?」
アルが訝しげに問うとソウは肩を竦めながら答えた。
「手前のその目はただの飾りか?ソウだよ、ソウ」
「違うだろ、だってあいつは...」
「あいつはそんな話し方しない、ってか?それじゃ10点だ」
アルの言葉を遮って彼は言う。
アルに負けず劣らず人を馬鹿にした笑みを浮かべて。
「それだけじゃねぇ。
お前とソウじゃ気配がまるで違うんだよ」
姿も声も間違い無くソウなのに、目の前の人物をソウだとはとても思えなかった。
口調や気配がまるで違っている。
そこまで考えてアルは気づく。
「そうか、お前の気配はソウから感じた闇の気配と一緒だ。
微かにお前から水と氷属性も感じる」
「60点。まぁそこまで分かれば上等だ。
さすが竜人族ってとこか?
無事に出来損ないから卒業出来たみたいで良かったじゃねぇか。
そうだな、俺はソウであってソウじゃない。
俺はソウを知ってるが、今のソウは俺を知らない」
そう言いながら、彼は刀を抜く。
ソウが持っていた時は白銀に輝いていたその刀は彼が手にした途端黒く染まった。
「まぁ俺が誰かって話は後でしてやるよ。
それよりもまず...」
一旦言葉を切った彼は森の奥から出てきたジャックとスミレを見つけるとニヤッと口角を上げて嫌な笑みを浮かべた。
「ソウを傷つけてくれた奴にお礼をしなくちゃな?」
彼は片方の刀を肩に担ぎ、もう片方の刀をスミレに向けた。
「おいアルフレッド。
そっちの銀髪は任せた。今用があるのはこっちの黒髪の方なんでな」
言うが早いか彼はスミレに鋭い斬撃を放つ。
咄嗟にスミレは自らの刀でそれを受け止めた。
「あんたまだ生きてたのね...!」
「良かっただろ?
結構イケメンだったのに残念ね、っつってたじゃねぇか」
笑みを崩さぬまま彼はガラ空きのスミレの腹に蹴りを入れる。
再び吹っ飛んだスミレだが、今度は空中で体勢を立て直した。
「汚い手使うんじゃないわよ!」
「最高の褒め言葉だよ。
生憎と俺はソウみたいに優しくないんでな。女だからって手加減するつもりもねぇ。
まぁお前は女だなんだ以前にあいつを刺したって事で死刑一択だが」
首をコキコキと鳴らしながら彼はゆっくりとスミレに近づく。
口元には残虐さが滲む笑みをたたえながら。
「俺もさぁ、出てくるつもりなかったんだぜ?表はソウに譲ったからな」
「表...?
あんた一体何者なの?」
「俺はソウでソウは俺。
俺はソウの闇で、ソウは俺の光だ。
さてと、聞きたい事はそれだけか?」
カチャリ、と剣をスミレに向ける“ソウ”の姿が一瞬、銀髪を靡かせた誰かの姿と重なる。
けれどそれはほんの一瞬で、スミレが瞬きをした時には既にソウの姿に戻っていた。
「全然答えになって無いけどいいわ。
今度こそ殺してあげる。あの時死んでおけば良かったって後悔するくらい」
「おー怖い怖い。
だが、殺し損ねた代償は高くつくぜ?」
そしてまた、白銀と黒の刃が交差したーー
そしてアルは、ジャックと睨み合っていた。
体のあちこちが痛み、限界を訴える。
リオウも警告していたが、長期戦はこちらが不利だ、一気にカタを着けたい。
「やせ我慢は止した方がいいのでは?既に貴方の身体は限界でしょう?」
「余計なお世話だ。
そんなに俺の身体が心配か?」
「いえ、貴方が自滅するのはこちらとしてもありがたい事ですが、それはそれで面白くないでしょう」
「ドラゴンスレイヤーってのは皆元々悪趣味なのか?
それともあいつに似たのか?」
相変わらずの嘲笑を浮かべながらアルはゆっくりと剣を構え直す。
ジャックも再びナイフを両手の指に挟んでいた。
「祖竜の力...実に興味深い。
イオ様が感心を持たれるのも頷けます」
「あいつに好かれても嬉しくねぇよ。
さっさと始めようぜ?話し合いに来たわけじゃねぇんだろ?」
「そうですね、私も貴方も幾分消耗していますし...次で決めましょう!」
「あぁ、来いよ」
アルのその言葉が引き金となって2人はお互いに魔力を限界まで高め、魔法を放つ。
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