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頭上から、カイの良く知った、そして聞きたかった声が聞こえた。
皆が一斉に上を向くと、そこには七色に輝く竜の背に乗った銀髪の青年が居た。
「アル!!」
「アルフレッド!?」
口々に驚きの声をあげるレジスタンス。
さすがにジャックとスミレも驚きを隠せない。
「ちょっと、あいつなんで居るのよ!
レオやイオ様も居たのに、どうやってここに来たって言うの!?」
「確かな事は分かりませんが...恐らくあの竜は祖竜でしょう。
祖竜の力を持ってすればあそこからの脱出は容易なはずです」
険しい顔で推測を並べるジャック達の前にアルはひらり、と飛び降りた。
そのすぐ横にリオウも並ぶ。
「追いついたぜ、ドラゴンスレイヤーさんよぉ?」
「レオ様と約束されたのではなかったのですか?
自分が連れていかれる代わりに彼らには手を出さない、と。
それを自分から放棄するとは...」
ジャックのその言葉を聞いたレジスタンスに動揺が走る。
アルは自ら犠牲になったのかと...
一方のアルはいつもの馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「したか?そんな約束。
まぁ仮にしていたとしても、現状を見る限り約束の効果はなさそうだがな?」
「アル!!」
会いたくて堪らなかったアルの後ろ姿に、カイは声をかける。
無事で良かったと思いながらアルに歩み寄る。
「よぉカイ。
元気にしてたか?」
そう言いながらこちらを向いたアルを見て、カイは思わず足を止めた。
「アル、その目...」
カイのよく知る銀色の瞳では無く、今のアルの瞳は赤かった。
そう、それはまるでドラゴンスレイヤーのように。
「悪い、カイ。
後でちゃんと説明するから、今は下がっててくれ。
竜の力を使うのは初めてだからな、上手く制御出来る自信がねぇ」
そう言って再びカイに背を向け、ジャック達を睨みつける。
その背中に気圧されたカイは言われた通りに下がった。
「はっ!あんたまさか1人で戦う気?
いくら祖竜と契約したからって無理に決まってるじゃない!」
「やってみないと分からねぇだろうが、阿呆」
「アホですって!?
いいわ、お望み通り殺してあげる!」
刀を構えたスミレの横でやれやれ、とため息をつきながらジャックもナイフを構えた。
アルも剣を抜き、リオウに話しかける。
「...行けるか?」
「私の方は大丈夫だ。
だが、お前の身体の方が保たんかもな」
「...その時はその時だな」
そう言ってニヤッと笑うと二人に剣を向ける。
「来いよ、ドラゴンスレイヤー」
まず、スミレが跳び、ジャックが続く。
一方の剣でスミレの刀を受け止めると、もう片方の剣でジャックのナイフを弾き返す。
リミッターが外れているせいか、いつもよりも数段身体が軽い。
猛スピードで剣を交え、ナイフを投げては弾く三人の姿を周りの者は息を飲んで見守る事しか出来なかった。
「...凄ぇ」
何時の間にかカイの隣に立ったアッシュが呆然と呟いた。
無理も無い、竜人族の二人の目でも三人の姿を追うのがやっとだ。
スミレの剣戟を後ろに跳んで交わし、空中で一回転したアルはリオウの隣に着地した。
「Congelatio(氷結せよ)!」
アルが呪文を唱えるとそれに呼応してリオウの身体も淡く光る。
手に魔力を集め、アルはジャックとスミレに向けて魔法を放つ。
祖竜の力を借りた魔法はたちまち地面や木々を凍りつかせていく。
その魔力は辺りの気温を一気に下げる程だった。
間一髪、咄嗟に避けた二人だがその顔に余裕の色は無くなっていた。
「ちょっとあれ反則じゃない!?
なんなのあの魔力は!」
「想像以上に強力な魔力ですね...
しかし、術者にかかる負担も大きいようですよ」
ジャックの言葉にスミレがアルを見ると彼は口元に手を当て、激しく咳き込んでいた。
その手から真っ赤な鮮血が滴る。
「ごほっ...!」
「アル!無茶はするな、元々怪我をしているお前がこれ以上魔法を使うのは危険だ!」
リオウもアルの限界に気づき、少し慌てたように呼びかけた。
更に契約時に外れていたリミッターも少しずつ効果が切れ、アルの瞳が段々と銀色に戻って行く。
「今ね」
「えぇ」
その隙を見逃さなかったジャックとスミレは止めを刺そうと二人同時に跳躍する。
ここまでか、と自分の名を呼ぶカイやリオウの声を聞きながらアルが覚悟を決めた時、何処からか闇の魔力を帯びた球が飛んで来て、ジャックとスミレにぶつかった。
完全に不意を突かれた二人は森の奥へと吹っ飛んでいく。
驚いて目を見開くアルに声がかかる。
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