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「大丈夫?」
「うん。ごめん、ちょっと昔の事思い出しちゃったみたいでさ!」
ははっ、とアッシュは笑うが明らかに作り笑いだった。
しかしカイはそれ以上聞くことはしなかった。
誰にでも聞かれたくない過去はあるものだし、必要ならばアッシュの方から話してくれるだろうと思ったからだ。
「クロエが言ってただろ?
今日が山場だって。だからなんか...怖くてさ」
そっとアッシュは目を伏せる。
カイはどうして良いか分からず黙り込んだ。
「...大丈夫だよ、きっと。
ソウさんは、死なないよ」
ようやく言えた言葉は、そんなありきたりなものでしかなくて。
大丈夫だという確証が無い事は、カイもよく理解していた。
しかし、それ以外の言葉が見つからなかった。
「ありがとう、カイ。
俺、誰かにそう言って欲しかったのかも」
そう言って笑ったアッシュの笑顔は、今度は作り笑いでは無かったのでカイもにこりと微笑んだ。
「カイも、アルが心配なのに気ぃ使わせてごめんな。
カイの気持ちは分かるよ。でも、アイリスの言うとおり、今俺たちが行っても同じ事を繰り返すだけだ」
「うん、分かってる」
カイが静かに、しかし決意を込めた声で言うとアッシュは驚いた顔でカイを見た。
「本当はね、今こうしてる間にアルに何かあったらと思うと焦って仕方ないんだ。僕はもうこれ以上友達を失いたくない。
だけど、だからこそ、アイリスさんやアッシュの言う事は正しいと、そう思う。
本当は今すぐにでも助けに行きたいけど...今の僕じゃ力不足だもんね」
やせ我慢、なのだろう。
カイの瞳の奥に不安と焦りがあるのをアッシュは見逃さなかった。
しかし彼は自分達を、そして何よりアルを信頼していた。
だからこその決断だった。
「それに、今行ってもアルに怒られちゃうよ。
何で来たんだよ、って」
ふふっ、と笑うカイを見て強いな、とアッシュは思う。
二人の間の絶対的な信頼の証だろうか。
「ちょっとあなたたち!
いつまでそこに居るつもり?
さっさと休みなさい」
その時姿を現したのはクロエだった。
はっきりと疲労の色が伺える二人を見て、彼女は呆れたようにため息をついた。
「いい加減休みなさい。
いざと言う時あなた達が戦えなかったら意味ないでしょう?」
「でも...」
アッシュはちらり、と視線をソウに向ける。
彼は相変わらず眠りについていた。
「あぁ、ソウなら私がちゃんと見ておくから。
これ以上倒れられても迷惑なのよ」
そう言われると何も言えず、何日かぶりに二人は休息を取る事にした。
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