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「でも、聞いて。」


「多分、多分だけど、彼女達は、私達を裏切らないと思う」

短く切りそろえられた髪を揺らして、ユカは言葉を選びながら静か
に、かつ力強く主張した。

「だからーー」

「わかった、もういい。」

「え?」

ユカは目を見開いて声の主ーーアッシュを見つめた。
彼女の瞳のなかには小さく不安の色が揺らめいていた。

「…ドラゴンスレイヤー研究所に行って研究対象になればいーんだろ?オレは、別に構わないよ」

殴られた左の頬を軽く撫でながら、アッシュは隣で思案に暮れているカイを一瞥する。
彼はどうやらカイの意見を聞きたいようであった。

「あ、えっと、僕は…」

アッシュが自分のことを見ていることに気づいたカイはしどろもどろに、言いづらそうに言葉を濁らせる。

「いいと思う、けど。でも、アルを早く助けたい…です…」

…なぜか敬語になってしまった。

そうか、二人の意見は理解した」

アイリスはカイの意見を聞くと部屋にいる全員を見回す。

「とりあえず、私は研究所に協力をして、リミッター解除の究明をしてから、アルフレッドを助けた方がよいと思うのだが」

「…え?
ま、待って下さい」

カイはアイリスの意見にあわてて異を唱えた。

「け、研究所に協力している間、アルはどうなるんですか。こうしている間にも、彼の身は危険に晒されているかもしれないんですよ?」

「落ち着け、カイ」

アイリスは珍しく穏やかではない状態になっているカイを宥めると続けた。

「冷静に考えてみてくれ。
アルフレッドを助けることを先にしても、だ。現状、我々には決定的な戦力が欠けている。
仮にこの状態で、我々が政府に突入しても、適当に蹴散らされて終わるだろう。
それは、私たちにも、私たちと同じ政府を倒したいという志をもつ人々にも、避けるべきことなんだ」

「だ、だけどーー」

「それに加えて」

アイリスがカイの声を掻き消す。

「奴等がアルを奪っていったのは何かしらの理由があるはずだ。
奴等も、アルを奪うために、多少ではあるがリスクを負っていたはず。リスクを冒してまで手に入れた人質を、そう簡単に殺すだろうか?」

「……。」

「…納得できないか?
でも、これが私の思う最良の選択肢なんだ。」

アイリスはカイから他のレジスタンスメンバーたちに向き直った。

「皆はどうだ?」

アイリスの問いかけに、部屋の中は少しばかりざわめいたものの、アイリスの案に特にこれと言って反対意見を言う者は無かった。

「では、今日はここまでにしておこう。
詳しい話は追って連絡するから、各自体を休めておいてくれ」

アイリスのその言葉が合図となって、人の輪はばらけた。
その中に、暗い顔をしたアッシュが1人立ち去るのを見たカイは、そっとその後を着いて行った。

アッシュを追ったカイが辿りついたのは、医務室だった。
様々な機械に繋がれ、眠るソウの横に、アッシュは立っていた。
見たことが無い程に暗いアッシュの顔を見てカイは耐えきれず声をかけた。

「アッシュ...?」

その声にハッと振り返ったアッシュの瞳には、うっすらと涙が溜まっていたように見えた。
慌てて目を擦りながらアッシュは無理に笑顔を作った。

「どうした、カイ?」

「アッシュが1人で出てくのが見えたから...」

「そっか」

小さな声で答えながら、アッシュは再び眠るソウに視線を落とす。
つられるようにしてカイもソウを見た。

血の気の無い、青白い顔。
苦しそうに寄せられた眉。
僅かに聞こえる、弱々しい呼吸。

今にも死んでしまいそうだった。
そっと隣のアッシュの様子を伺うと、彼は血が滲みそうな程強く、強く拳を握りしめていた。

「俺のせいでっ...!」

「アッシュ?」

「あんな思い、もう二度としないって決めたのに...!」

「アッシュ、落ち着いて!」

アッシュの目は、不安そうにゆらゆらと揺れていた。
それは、何処か遠くを見ているようで。
怖くなったカイは、アッシュの肩を掴んで揺すった。

「アッシュ、アッシュ!」

「...え、あ、カイ...?」

やがて我に返ったアッシュは何回か目をパチパチと瞬かせた。
カイはホッと胸を撫で下ろすと、アッシュに問いかけた。



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