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「ま、待ってよアル!」

大陸の西端に位置する港町メビノスの、人で賑わう大通り。

銀髪銀眼の精悍な顔立ちの青年は、自らを呼ぶ声にちらと後ろを振り返った。

アルフレッド、という自分の名をアル、と親しげに呼ぶ唯一の友人の姿を探すと、割と離れた後方に彼の見事な金髪が見えた。

「うわ、す、すみませ……あ!すみま…ごめんなさい!」

時間に比例して前へ進むどころか、反比例しているんじゃないかという具合で、謝罪と共に更に後方へと流されつつある彼──カイの姿に、アルははぁ、と嘆息した。

「バカかあいつ…」

一体どうしたらこうも距離が空くというのか。

答えなど考えずとも重々理解しているが、不思議に思わずにはいられない。

アルは大通りに入る前のカイとのやりとりを思い浮かべた。


食料やその他消耗品の調達を終え、街を出ようかとしていた昼下がり。

「ね、アル、知ってるかい。

メビノスは有名な港町だけど、『本の街』としても有名なんだよ。」

カイの何時になくはしゃいだ声を聞いて、来た、とアルは背筋を強張らせた。

「………」

先に続く言葉は予測出来ていたので、早く街を出てしまおうと黙って足を速めたが、残念ながら門までの道のりは遠そうだった。

「街の中心に公共の大図書館があるらしいんだけど、寄っていっても良いかな?」

「……嫌だ」

一応、不機嫌そうに拒否を試みる。

無意味なことはわかっていたが。

カイは言うなれば、本の虫である。

普段はあまり自分の意見を口に出すことはないが、本の話となると人が変わった様に積極的になるのだ。

買い物が全て終わるまで言い出さなかったこと事態、快挙と言える。

アルより小柄なカイは、アルを追いかける様に少し小走りをしながら口を開く。

「ここは貿易が盛んだから世界中の本が集まってるし、規制も緩いんだ。
少しだけで良いから!」

「却下だ。
お前の少しは少しじゃない。」

「本当に少しだよ!
明日には街出れる様に本を選ぶつもりだし」

「それは少しじゃねぇ」

こうなることがわかっていたから、わざわざカイの視界に図書館が入らない様に道を選んで歩いていたというのに。

アルはカイに図書館の存在を知らせてしまった奴─大方あのお喋りな薬屋の親父だろう─に舌打ちしたい気分だった。

「大体、前にもこういうことで危険な目にあったばっかじゃねぇか。
却下っつったら却下だ」

「そ、それは大丈夫だよ!
ここの図書館は出入りする人が多くて、身分証明も必要ないし僕らの正体がバレる心配もないから」

お願いだよー、と後ろで響く声が段々と切実なものへと変わっていく。

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