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エストライゼ大陸暦654年
賢帝と謳われたウィゼル一世が、民族同士の領地抗争を収め、「名も無き大陸」にエストライゼ(夜明け)の名を冠し治め始めてから654の年月を経た。
帝国政治は初期に崩れ、竜人族による統治が長らく続いていた。
"竜人族"──竜と共に生きる者とも呼ばれ、その通りに、自らが生まれる瞬間に同じく生を受けた竜を契約竜として、互いに助け合い生きる、大陸暦183年に発生したとされる種族である。
彼らは平和を好み、属性ごとに集まり地域を分割して治めるという、絶対権力の存在しない統治を行った。
しかし保たれていた平和は、他ならぬ竜人族によって崩された。
竜人族の中には、竜の圧倒的な力に魅入られ、竜人族による独裁政治を求めていた勢力があった。
月日を重ねる中で彼らは人体実験を繰り返し竜の血を体内に入れることで力を手に入れる方法を発見する。
そして彼らは自らをドラゴンスレイヤーと名乗り、その方法を否定した多くの竜人族を旧勢力として攻撃し始めた。
その力は強大で、数で勝っていた竜人族も死闘の末に次々に滅ぼされ、ドラゴンスレイヤー達による独裁政治が始まった。
僅かに残った竜人族は人里を離れ隠れて暮らすようになった。
竜人族はドラゴンスレイヤー達にとって、狩る存在となったのだ。
以来、世界には魔力を持たぬ人間、魔力を持つ魔導師、竜人族、ドラゴンスレイヤーが存在している。
そんな歴史的に大きな変革を遂げた時から400年後の1054年。
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