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───あかい。
彼はまず、そう思った。

赤く、紅く、朱く染まった視界。

眼を開けて見えた世界はただひたすらに赤かった。

視覚が働いたことで、彼の意思に構わず体は急速に他の感覚を取り戻す。

激痛に支配された身体、焔の破ぜる音、誰かの悲鳴、そして──屍肉の焼ける匂い。

痛みを圧して首を巡らせば幾つもの重なる死体があった。

いつも彼を苦しめていた存在。

孤独と劣等感の中で、世界など壊れてしまえば良いと、何度思ったことだろう。

それが叶った今の自らの心情を思い自嘲しながら、彼は視線だけで『彼』を探す。

彼が連れてきてしまった禍の根源。

その鮮やかな緋色は赤い世界の中でも一際美しく、探すでもなく見つかった。

地獄の様な世界の中でも悠然と微笑み、彼の視線を受けて近づいて来る。

5m程の距離を残して止まった『彼』は、微笑みを崩さず口を開いた。

「────」

試す様に紡がれた言葉に彼は間髪入れずに答えを返す。

「──────」

その返答に『彼』は満足そうに一頻り笑った。

そして、片手にあった小さな銃を一発、彼に向けて事も無げに放った。

自分に向けて放たれた光が、彼の世界を滅ぼしたものと同じであると確信し、その光の向こうに見える冷たい緋瞳を一瞬だけ見つめた後、彼は目を閉じた。

手元に感じた何かを、最後の足掻きとばかりに方向を確認することもなく投げつける。

それと同時に、衝撃が身体を包んだ。

意識を失う瞬間、彼は瞼の裏に虹を見たような気がした。

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