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スッと鎧に包まれた右手が差し出される。
「い…いえ!こちらこそ…」
その右手を握るカイ。
アルはといえばアッシュの時と同じようにその手を握ろうとしなかった。
「だからそんな冷たくしたらダメだって、アル!」
カイが慌ててアルを嗜めるがアルはアイリスの右手を一瞥し、肩をすくめた。
「苦手なもんはしょうがないだろ。
それと、鎧は外した方が良いぞ。
ガシャガシャうるさいし、ドラゴンスレイヤー相手じゃ大して役に立たない」
「アル!
すみません、悪気は無いんです!」
カイが慌ててフォローし、アイリスも気にしていないようなスタンスを取るがその手は動揺でカタカタと震えていた。
微妙な空気が立ち込める。
「へぇ、お前らが竜人族か!」
気まずい空気を断ち切るように黒い鎧の男が口を挟んだ。
「俺はユアン。
レジスタンスのサブリーダーっつーかアイリスの補佐だな」
「あ、僕はカイっていいます。
よろしくお願いします!」
相変わらず礼儀正しいカイと値踏みするような視線を隠そうともしない失礼極まりないアル。
ユアンは何が嬉しいのかニッコニコしながら先程から黙っている二人に向き直る。
二人とも肌が病的に白い。
……こいつら日光浴びた事あんのか?
と、密かにアルは思う。
「お前らも新メンバーに挨拶したらどうだ?」
みつあみの少女はカイとアルをちらりと見て1人頷くと「……ユウ・ローゼライト」とだけ言い、なんと壁を通り抜けて行ってしまった。
ぽかんと口を開けるカイ。
「凄い間抜け面になってるぞ、カイ」
「だ…だって!
アルも見たでしょ、今の!?」
「あぁ、世界びっくり人間も真っ青だな」
そう言ってアルはわざとらしく驚いてみせる。
「ユウはどんな重いものでも自由自在に浮遊させる力と、どんな分厚い壁も通り抜けられる力を持っているんだ」
「へぇ…!」
アイリスの説明に目をキラキラさせるカイは元々童顔なせいもあり、かなり幼く見える。
一方のアルは大して話を聞いておらず、もう1人の栗色の髪の美青年を見つめていた。
彼はヘッドホンをしている為、先程のユアンの声が聞こえていなかったようだ。
いや、もしかしたら聞こえていたかもしれないが読んでいる本から目を上げる様子は無い。
「あ…えと…カイです、よろしくお願いします」
話し掛けづらさ100%の青年に頑張ってカイは話し掛けるも、青年は相変わらず顔を上げない。
「ほら、ソウ!」
ユアンが青年の肩にポン、と手を置くと、青年の体は不自然なくらいビクッと跳ね、ユアンの手を振り払った。
バシッという音が部屋に響く。
「あ、悪い悪い。
ダメだったよな、触られんの」
しかしユアンは全く気にしないようで、相変わらず笑顔のまま、はたかれた手で自分の頭をガシガシと掻いた。
そこで我に返り、ようやく周りに気がついたのか、青年は顔を上げ、ヘッドホンを外した。
「……すまない」
「良いって、俺が悪かった!
それよりほら、新メンバーだ。
待ちに待った竜人族だぜ!」
青年は驚きに、僅かに目を見開くとカイとアルに向き直る。
眼鏡越しの綺麗な深い青が二人を見つめた。
「カイです、よろしくお願いします!」
再びカイが挨拶すると、今度は、「……ソウだ」という短いがちゃんしたと返事が返ってきた。
ソウは先程から自分を見つめるアルに名前を問うような視線を投げる。
それに気付いたアルはついさっきまで浮かべていた不機嫌そうな顔を消し、ニヤッとした笑いを浮かべた。
その笑みにカイはおや、とした顔をする。
「アルフレッドだ」
刹那、銀と青が交差する。
アルはその銀色の目の奥に確かに好奇心を浮かべていた。
恐らくそれに気がついたのは付き合いの長いカイと、見られているソウの二人だけだろう。
「じゃあ、他のメンバーも紹介しよう」
アイリスの声に二人の視線が外れる。
長かったような、短かったような不思議な感覚をカイは覚えていた。
視線が外れた後もアルの目は面白そうに光っていた。
「…珍しいね、アルが人に興味持つなんて」
アイリスとユアンに隠れ家内を案内されながらカイはそっとアルに話し掛けた。
するとアルは呆れと驚きが混じったような顔をする。
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