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あの後、少し回復したカイと船内を歩いていたアルはユカと再会した。
毒舌で皮肉屋なアルと違い、優しく穏やかなカイには多少ユカも懐いたようだった。
そして、サグゼンに用があるというユカと別れてから2日後。
ようやく船は3人の目的地であるグランバスタに到着した。
ついこの間まで居たメビノスとは正反対のあまり人気の無い山ばかりの地だ。
「よっし!
ここまで来たら後少しだよ!」
というアッシュの言葉を聞いてから山の中を歩く事数時間後。
彼らは崖道の途中にある、1つの大きな岩の前に居た。
どうやら岩がバリケード代わりになっているようだ。
「とうちゃーくっっ!
いやー長かったねっ!」
「後少しって言ったのn「細かい事は気にすんなっ!」
カイの呟きを無理矢理遮るアッシュは嬉しそうにベッシベッシと岩を叩く。
「じゃ、入ろうか!」
アッシュは近くに落ちていた木の枝を拾い、岩を三回叩く。
少しの間を置いて、中から誰だ、という声が聞こえてきた。
「俺だよ、アッシュ・リンゼンブルクだ」
そうアッシュが名乗ると、更に間が開き、ゴゴゴ……と音がして岩が動く。
完全に岩が退き、扉が現れるとアッシュはアルとカイに手招きしながら中へと入ってく。
一瞬だけアルとカイは顔を見合わせるとすぐにアッシュの後に付いていった。
中は想像よりも広く、明るかった。
所々で人々の話し声が聞こえる。
「おう、帰ったかアッシュ!」
無精髭を生やし首からゴーグルを下げた黒髪黒目の30代前半の男がアッシュに声をかける。
「お、ただいま、ロイド。アイリスは?」
「あー、あいつならユアンとかと一緒に奥にいるぜ。もしかしてその二人…」
ロイドと呼ばれた男は好奇の眼差しでカイとアルを見る。
「そ。俺の同胞」
「おぉ!!やったな!
いやー良かった、良かった!
俺はロイドってんだ。
レジスタンスではメカ担当…まぁ皆の武器の点検なんかが殆どだけどなぁ」
「初めてましてロイドさん。
僕はカイといいます」
「ロイドで良いよ。
で、そこの銀髪のイケメンな兄ちゃんは?」
アルはちらっとロイドを見、すぐに目を反らす。
「……アルフレッド」
「アルフレッドか。
じゃあアルだな」
「…アルフレッド、だ」
気安く呼ぶな、と言いたいのが丸分かりの声で言うとロイドはハハッと笑った。
「よろしくな、カイ、アルフレッドの兄ちゃん!」
笑顔で頷くカイと相変わらず目を反らしたまま不機嫌な顔のアル。
そんな二人をアッシュが引きずって連れてきたのは一番奥の部屋。
そこに居たのは赤みがかった茶髪に赤い鎧を着た20代前半の女と、黒髪に黒い鎧を着て背中に大剣を背負ったこれまた20代前半の男。
そして長い黒髪を後ろでみつあみにした15、6歳の少女と栗色の髪の18、9歳の美青年の四人だった。
「アイリスー戻ったよー」
アッシュが話し掛けるとアイリスと呼ばれた赤い鎧の女が顔を上げた。
「アッシュか。
どうだ、任務の方は」
凛とした綺麗な声が響く。
「もうバッチリ大成功。
ほら、この二人だよ」
アッシュが指差す方には少し困ったような顔をして会釈するカイと、不機嫌そうな顔を崩さずに立っているアルが居た。
アイリスのこげ茶色の目が驚きで丸くなる。
「君達が…」
「金髪の方がカイで、銀髪はアル」
「…アルフレッドだ。
お前は人の名前も覚えられないのか?」
「本当に一言多いよな、アルは!」
「お前が一言少ない分補ってやってるんだ」
適当にアッシュをあしらうアル。
あしらわれたアッシュは悔しそうに地団駄を踏む。
そんな二人を見てアイリスは微笑むと自己紹介を始めた。
「私はアイリス。
このレジスタンスのリーダーだ。
よく来てくれた、カイ、アルフレッド」
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