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潮風が心地よいデッキに1人アルは居た。

カイの願いを断れずレジスタンスに入る等と言ってしまったが正直自分が大した戦力になるとも思えない。

リミッターを外せば竜の力をフルに使えるという話にしろ、どうせ竜が居ない自分にはリミッターが外れた所で使う力など無い。

そっと自分の鎖骨近くにある透明な鱗を撫でる。

鱗を撫でるのはアルが考え事をする時の癖だった。

竜人族だと言うには、自分はあまりにも『中途半端』すぎた。
カイやアッシュとは違う。

目を閉じると、あの緋色が瞼の裏に浮かぶ。

最後に『彼』とやったやりとりを思い出し、アルは口角をくっと上げて嗤う。

「……上等じゃねぇか」

それが自分自身に向けたものなのかそれとも『彼』に向けたものなのか……





「あ、おーい!いたいた!」

今ではすっかり聞きなれた騒がしい声にアルは目を開け盛大に顔をしかめる。

「いきなり居なくなるからびっくりしただろー?」

「お前は俺の保護者か?
アホなツラしてるくせに」

「んな…!?
開口一番それか!?」

「ほぉ、よく開口一番なんて言葉知ってたな」

「くっ…!
ここまで馬鹿にされたのは初めてだぜ…!」

わざとらしいアッシュにアルは呆れたように溜め息をつく。

「カイは…あぁ、船酔いか」

カイは乗り物に弱い。
恐らく今、青ざめた顔でウェンディに励まされてるのだろう。

「いやーカイには悪い事したね」

「自業自得だろ」

ついていくと言ったのはカイである。

「んな冷たい事言うなよー」

アッシュがアルの肩を叩き、アルが鬱陶しそうにそれを払った時。

「あーー!!」

後ろから大声がしてアルの顔が更になんなんだよ、とうんざりしたものになる。

振り返ると、綺麗な黒髪を靡かせた少女が二人…というかアルを指差している。


「あんた!
夜市で会った!」

その言葉にアルは記憶を探る。

確かに夜市の帰り道、黒髪の少女とぶつかった気はするが暗くて顔がよく見えなかった為、目の前の少女があの時の少女なのかアルには分からない。

だがまぁ本人が言うならそうなんだろう。

「ユカじゃん!
あ、あの時の子ってユカだった感じ?」

どうやらアッシュは少女を知っているようで馴れ馴れしく話し掛ける。
……彼が馴れ馴れしいのはいつもの事だが。

「うっさい、チャラ男!
あたしに話し掛けないでって言ってるでしょ!」

「チャラ男って…
俺にはアッシュっていう名前があるんですぅー!」

「あんたなんかチャラ男で十分だし!」

大声で喧嘩する二人に挟まれたアルは深く溜め息をついた。

「おい、お前の名前なんざどうでも良いが俺を挟んで喧嘩するな」

「え、今サラリと酷いこと言ったよね?」

「で、チャラ男。
こいつは何なんだ」

「いやいやいやチャラ男じゃねーし!アッシュだし!
あ、この子?
この子はユカって言ってレジスタンスの仲間だよ」

「へぇ…」

ユカという少女はどう見積もっても16歳より上には見えない。

「こんなガキがレジスタンスの一員なのか?」

「ちょっと、あたしはガキじゃないから!
16歳だから!」

「俺から見たら十分ガキだ、阿呆」

「自分だって大して変わらないくせに」

確かにアルも見た目は17、8歳くらいである。

「人を見かけで判断するんじゃないって教わらなかったのか?
俺はお前よりずっと年上だ、間抜け」

「ホント、毒舌だよねぇ、アルは。
ユカ、信じらんないかもしれないけどアルの言ってる事はマジ。
俺らは普通より成長のスピードが遅いからね、実年齢は見た目よりずっと上」

アルもアッシュもユカもこの場にはいないカイも、見た目は同世代だが中身は全く違う世代である。

「ん?『俺ら』って事はもしかしてそいつ…」

「そ。俺と同じ種族でーす!」


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