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バイキング形式になっていて、みな思い思いの朝食をとり終えると、カイがさっきの続きをと、潤んだ瞳で訴え始めた。
「えーっと、アッシュ。…この後って時間ある?」
「えっ、まさかとは思うがまだ読んでない本があるの?」
「ちょっとだけね。」
「こいつのちょっとは全然ちょっとじゃないぞ。」
「うーん、でも1時間くらいしたら港に行かないといけないからな…。」
「これにさっきのメモを挟んでおけ。別の図書館で読めばいいだろ。」
そう言ってアルは昨日の夜店で買ったブックカバーを差し出した。
「わー!僕の好きな色だ。アル、ありがとう!」
カイに礼を言われ、困ったように目を反らすアル。
それを見たアッシュがからかい半分で尋ねた。
「あれ、アルってお礼言われるの苦手なの?」
「…なんか気持ち悪いんだ」
ボソッと呟いて席を立つ。
そんなアルの背中を哀しそうに見つめるカイ。
「アルはね、お礼を言われる事に慣れてないんだよ。昔からずっとからかわれてたからね…」
「成る程ねぇ…
アルがからかわれっぱなしだったのが俺にはちょっと想像つかないけど」
まだ会ってから然程経ってないものの、アルが大人しくからかわれるような奴では無い気がする。
「あぁ、それはもちろん。アルをからかった子達は皆返り討ちにあってるよ」
困ったように笑ってカイは言う。
だよなぁ、とアッシュも笑う。
「そういえば1つ気になってたんだけどさ、アルの両親は普通っつーか竜が居ないとかあったのか?」
「ううん…アルの両親は普通だよ…」
目に見えてカイの顔が曇る。
あ、この話題不味かったか、とアッシュが思った時、頭上から声がした。
「人の個人情報を漏洩するんじゃないといつも言ってるだろうが、カイ」
見ると不機嫌…というよりめんどくさそうな顔をしたアルがいつの間にか戻っていた。
「あ…アル!」
「あぁ、ゴメン、俺が聞いたんだ」
アッシュがカイを庇うように言うとアルはどうでもいい、と言うように肩をすくめた。
「次からは情報料とるぞ」
怒られるか、と覚悟していただけにアルの言葉は意外だった。
「お…怒んねぇの?」
「なんだ、怒られたいのか?悪いが俺はそういう趣味は無いぞ」
「そ、そういう趣味ってなんだよ!」
「意味が分からないわりに焦ってるじゃないか」
いつもの人を馬鹿にした笑いを浮かべるアル。
アッシュがアルに舌戦を挑んだところで勝てるはずもなく。
「だぁぁぁ!
もう出発するからな!早く食えよ!」
「残念だが俺もカイもお前待ちだ」
見れば、アルの皿もカイの皿も綺麗になっている。
アルが口の端だけを上げて最っ高に腹立つ笑みを浮かべるのを見てアッシュはこれ以上墓穴を掘るまいと急いで朝食を掻き込むのだった。
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